[携帯モード] [URL送信]

ブルー・デュール
桜 常 編

118

 文化祭が無事に終わり、夜も更けたころ。
 第一グラウンドで後夜祭が始まった。
 後夜祭と言っても、フィナーレに花火があるだけの実質的閉会式だ。

 営業を終えて客を返した全校生徒が、奇抜な格好のまま暗いグラウンドに密集している。
 どの生徒も文化祭をやり終えた達成感でテンションが高い。

 急ごしらえの特設舞台にひとりの二年生があがり、スポットライトが当てられた。
 百円均一で買ってきたような派手な蝶ネクタイをして、頬をオレンジ色で丸く塗っている。
 ノリのよさそうな先輩は、マイクを叩いてから左手を大きく振った。

「はーい皆さんお疲れさまでしたあー! これより第四十二回桜常高校文化祭後夜祭を始めたいと思いまーす!
はい拍手!」

 割れるような拍手とともに歓声や口笛が飛び交った。

「えーではまず、本日の来客動員数から発表したいと思いまーす!」

 ときどき声を裏返しながら、司会役の先輩は笑顔を絶やさずに話し出した。

 おれはまだ猫の格好で、慶多たちとは別に舞台裏で待機していた。
 というのも、我が一年四組のコスプレ喫茶が、奇跡的に売り上げ総合三位に入賞したからだ。
 例年だと、入賞するのは気合の入っている三年がほとんどらしい。
 おれのがんばりが報われたようで、率直に嬉しい。

 司会役の先輩はうきうきしっぱなしで、校長と理事長の話のとき以外はひっきりなしに喋っていた。
 よく口の中が乾かないなと感心してしまう。

「それではいよいよ、総合売り上げの表彰式に移ります! 今回はすごいですよー。
皆さん鼻血を出してぶっ倒れないように注意してくださいねー」

 そんな馬鹿な、と笑いたいところだが、司会の忠告は正しい。

「それではまず三位からー。一年四組、カフェハロウィン! なんと一年生が入賞です!
これは六年ぶりの快挙です!」

 おれは実行委員に背中を押され、舞台にあがった。
 スポットライトをぎんぎんに浴びて熱い。
 実行委員長から賞状を受け取ると、グラウンドの一画がどっと沸いた。
 見ればかぼちゃ男やらシーツお化けやらがおれに手を振っている。
 おれは賞状を掲げてクラスメートにピースサインをした。

「カフェハロウィンのコスプレは女子高生を中心に大人気でした! とってもかわいかった、
サービスがよかったなどと、お褒めの言葉を多数いただいております。では一言どうぞ」
「あ、えーと、正直驚いてます。でも嬉しいです。ありがとうございました」

 ぺこりと頭を下げると、ぱらぱらと拍手がした。

「今回は本当におめでとうございます! では次、二位に参りましょー」

 おれは賞状を小脇に抱えて舞台の端に寄り、スポットライトから逃れるとほっと息をついた。
 興奮しきった衆目の前にさらされて、恐ろしく緊張した。
 注目されることを楽しんでいるような司会の先輩は、かなり肝が据わっていると見た。

「三年五組、お化け屋敷古井戸やこちらに近づく足の音ー!実際の映画に使われた小道具をお借りしていたとかで、
俺も入りましたがめちゃめちゃ怖かったです!史上最凶の恐怖でした!」

 白い着物を着た先輩が賞状を受け取った。

「今日は泣いちゃった女の子の介抱で大変だったみたいですねー。
どうやらお化けが泣かされるというハプニングもあったようですが、いやー本当に怖いのは人ですねえ」

 まさかそれはおれのことか。

「それではご感想を」
「いい思い出になりました……」
「俺はトラウマになりましたけどね。ありがとうございましたー。では次、一位の発表です!」

 着物の先輩は疲れ果てた顔でそそくさと舞台を降りていった。
 これは謝ったほうがいいのだろうか。

「一位は三年一組のクラブ・ブルー・デュールです!」

 耳をつんざく大歓声に出迎えられ、鳴瀬が壇上にあがった。
 細身のスーツに身を包んだ鳴瀬は貫禄だった。

「指名率ダントツの鳴瀬会長と倉掛副会長の売り上げは半端じゃなかったらしいです。
いやもう、納得納得。俺なんだか眩暈がしてきました」

 賞状を受け取る鳴瀬に、会場じゅうが熱い眼差しを送っている。
 司会が始めに忠告したにも関わらず、何人かが鼻血を出して倒れた。
 それでも平然としていられる鳴瀬は、やっぱり大物だ。



*<|>#

10/18ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!