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ブルー・デュール
桜 常 編

116

 おれは何気なく掲示板を見て、言葉を失った。
 豪華な額縁風のペイントがほどこされた、鳴瀬の顔写真がでかでかと載せられている。
 その隣では倉掛が色気たっぷりにほほ笑んでいた。
 さらにその隣にも、顔のいい生徒の写真がずらりと並んでいる。

 鳴瀬の写真の下には、手書きのカードが下がっていた。
 「ただいま二時間待ち」と書かれている。

「二時間……? 鳴瀬に会うのに二時間待たなきゃならないのか?」

 倉掛の下にも二時間待ちのカードが下がっているが、ほかの生徒は長くても数十分待ちだった。

「これだけイケメンなら仕方ねえよ」

 峻は少しだけうらやましそうに言った。
 確かに写真の鳴瀬はそこらへんの読者モデルよりよっぽどかっこいい。
 少し怖そうに見えるのはカメラを睨んでいるせいか。
 本物はもっとさわやかなのに、もったいない。

「どうせ一緒の席に座れるのは五分かそこらだろうにな」
「五分交代で二時間待ちって……どれだけ予約いるんだよ」
「わかったろりゅう。会長を一人占めできるなんて、ものすっごく幸せなことなんだぞ」

 慶多が真面目な顔で諭してきた。
 おれはなんと返せばいいのかわからず、ふうんと人ごとのように流しておいた。

「あ、見えるぞ」

 峻は入り口に垂れ下がっている暗幕をそろりそろりと上げて手招きした。
 おれと慶多はわずかな隙間から教室(だった空間)を覗いた。

 薄暗くて妖しい雰囲気を想像していたおれは少し拍子抜けした。
 黒板の前しか蛍光灯がついていないが、それでも室内はまあまあ明るかった。
 椅子にはラメのついた黒い布がかぶせられ、ふたつ合わせた机を三つから四つの椅子が囲み、
いくつもの島ができている。
 真ん中の椅子にホスト役が座り、両脇に客が座って飲み物片手に話をしている。
 それぞれの机にスタンド式の照明が置かれ、紫やピンクの光を放って幻想的なムードを盛り上げている。

 一番奥に鳴瀬がいた。
 鳴瀬はぱりっとしたダークグリーンのシャツを着て、灰色のスラックスをはき、
高校生とは思えないほど堂に入っていた。
 髪の毛のセットがいつもと違い、どことなく水商売くさい。

 鳴瀬の両脇に座る制服姿の女子高生は、椅子に半分しか腰かけていない。
 膝が鳴瀬とくっつくほど身を乗り出し、鳴瀬に早口に喋りかけている。
 鳴瀬は朗らかに笑いながら彼女たちの話を聞いている。

 なんだか急激に腹立たしくなってきた。
 鳴瀬はおれ以外と接するときでも、ずいぶん楽しそうにできるようだ。
 おれだけにあの笑顔を見せているのかと思っていたが、とんだ勘違いだった。

「うわ、見ろよあそこ」

 峻が顎で示したのは、倉掛のいるスペースだった。
 倉掛はこげ茶に銀のストライプ模様のシャツを着ていて、ボタンを三つ開けて大胆に露出した胸元には、
ごつい銀のネックレスが光っている。
 足を組んで椅子に腰かけ、右隣に座ったウエーブの美しいロングヘアの女性と話しこんでいる。
 女性もまた露出の激しいセクシーなワンピースで、そこだけ切り取ったように歌舞伎町だった。

「さすがだぜ青波さん。まるで本職だ!」

 慶多がガッツポーズをした。
 おれは心の中で賛同した。
 あれが天職というものなのかもしれない。


   ◇



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