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ブルー・デュール
桜 常 編

113

 鳴瀬はカフェテリアを出ると裏庭へまわった。
 ここまで来るとさすがに誰もいない。
 園芸部が丹精こめて育てていた菜園は、収穫が終わってただの盛り土になっている。

「……なんでこんなところまで来るんだよ」
「お前が目立たないところがいいって言ったんだろ」
「いや、ここは目立たなすぎじゃ……」

 生徒の声すらしないので、ここにいると普通の休日となんら変わりない。
 うっすら聞こえてくるどこかの教室の音楽だけが、文化祭が行われていることを教えてくれる。

「別にさっきのカフェでもよかったのに。ホットサンドうまかったし」
「でもお前、人目ばっかり気にしてただろ」

 気づいていたのか。
 人のことなんてお構いなしだと思っていたのに。

 なんだか無性に嬉しくなって、おれは鳴瀬の隣に座って校舎の壁に寄りかかった。
 学校を取り巻く森がざわめき、マイナスイオンを含んだ風がおれと鳴瀬のあいだを吹きぬけた。

「あっ、そうだ。これ食べなきゃ」

 おれはここに来る途中で買ってきたかき氷をビニール袋から取り出した。
 イチゴとさんざん迷ったが、結局ブルーハワイにした。

「お前って意外とよく食べるよな」
「成長期だから。そのうちあんたもおい抜かしてやるからな」

 おれはかき氷をストローで刺しながら背筋をぴんと伸ばした。
 鳴瀬はズボンのポケットを探りながら小馬鹿にしたように笑った。

「んなの無理だって。足も手も俺のほうがでかいだろ」
「そうかあ?」

 ためしに鳴瀬の右手と自分の左手を合わせてみたが、確かに第一関節の半分ほど鳴瀬のほうが大きい。
 小指は第一関節分まるまる負けていた。

「ほらな」
「……いや、わからないぞ。二年後のおれはきっと今より伸びてる」
「俺もまだ成長期だけど? 俺だって二年後は今よりでかい」

 ああ言えばこう言う。

「てか、さっきからなに探してんの? 財布ならおれのポケットに入れてるだろ」
「いや、煙草」
「はあ? 先生に見つかったらどうすんだよ。生徒会長降板なんておれいやだよ」
「んなへましねえよ」
「だめだ。今日くらい禁煙しろ。口がさみしいならこれ食え。うまいぞー」

 おれはかき氷をひとさじすくって鳴瀬の口元に持っていった。
 鳴瀬はきょとんとして動きを止めた。

「……あ」

 おれは自分の愚かさを呪った。

「なーんて……」

 フェイントをかけて自分の口に持っていく。
 あーうまい。



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