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ブルー・デュール
桜 常 編

111

 そのあと、おれはちくちくと刺さる視線の中、給仕をするはめになった。
 鳴瀬たちはひとつのテーブルを陣取ったまま帰らないし、
電話で連絡を受けた野次馬で廊下までぎっしり埋まっているし、気の休まる場所がない。

 ようやくシフトが終わり、交代の生徒がやってくると、
おれは泣きつかんばかりに裏方にひっぱりこんでエプロンを脱いで渡した。

「はは、おつかれー」

 裏方で一部始終を見ていた生徒が、微妙な顔でおれの肩を叩いた。
 おれはついたての裏を出て、先にあがっていた慶多と峻のもとへ行こうとした。

 だが。

「やっと終わったか。長かったな」

 最後のコーヒーを喉に流しこんだ鳴瀬が意気揚々と立ち上がり、おれの腕をむんずとつかんだ。

「行くぞ」
「ええっ?」

 おれは鳴瀬にひっぱられ、つまずきそうになりながら教室を出た。
 待ち構えていた野次馬たちが興奮しきった様子でおれたちを見ている。
 廊下で待っていた慶多はカメラを構えた。

「ぎゃあああ本当にテイクアウトされてる!」

 峻が空気を読まずに絶叫した。

 せめて猫耳としっぽを外そうとしたが、そのたびに鳴瀬が怖い顔で脅してきて外させてもらえなかった。
 教室を離れれば少しは視線から解放されるかと思ったが、どこに行っても驚かれ悲鳴の嵐だった。
 ますます気の休まるところがない。

「どこまで行くんだよ……」
「どこに行きたい?」
「とりあえず、あんまり目立たないところに行きたいです」
「人けのないところだな」
「変な解釈すんなよ変態」

 鳴瀬の仏頂面は相変わらずだが、今日はかなり機嫌がいいように見える。
 そんなに文化祭が楽しみだったのか。
 おれは屈辱といたたまれなさに消えてしまいたいくらいなのに。



 おれと鳴瀬は中庭に作られた三年のクラスのカフェテリアにやってきた。
 外なだけあって静かで、客もそこまで多いわけではない。
 鳴瀬にしてはまあまあの選択だ。

 今日は心地のいい秋晴れだ。
 風もなく、最高の文化祭日和だ。

「お待たせしました……」

 それでもやはり、生徒たちの視線が気になる。

 ウエイターは注文したものをテーブルに置くとき、いやにおれをちらちら見てきた。
 長身美形の生徒会長様と一般生徒がふたりきりでいれば、注目もするだろう。

 おれは冷たいオレンジジュースを一気に飲み干した。
 喉が渇いていたのでとてもおいしい。
 コップの底に溜まっていた氷をがりがりと食べ、ホットサンドにかぶりついた。
 既製品を温めているだけなのかきちんと調理室で作っているのかわからないが、かなり完成度が高い。
 トマトとレタスとベーコンが互いの良さを引きたてていて、パンの塩気もちょうどいい。



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