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ブルー・デュール
桜 常 編

11

 昨日はあれだけ授業が長く感じたのに、今日は一転してあっというまに放課後になった。
 部活に出かける慶多から激励を受け、おれは生徒会室を目指した。

 ドアをノックすると倉掛の声がのんびり響いた。

「どーぞー」
「失礼します……」

 中は教室の半分ほどの広さだった。
 机が六つと奥に教師用のデスクが一つ。
 壁際には部屋に不釣り合いな大きく柔らかそうな革のソファがでんと据えてあった。
 倉掛は上履きをとブレザーを脱いでソファに仰向けに寝転がっていた。
 彼が足を伸ばして寝てもまだ尺が余っている。
 倉掛は顔だけこちらに向けてひらひらと手を振った。

「ちゃんと来たねー、偉い偉い」

 おれは鞄を空いている机に置くと、リラックスしている倉掛のそばに行ってソファを手で押してみた。
 ゆっくりとどこまでも沈んでいく。
 寮のベッドより数段柔らかい。

「こんな高そうなものどうしたんですか」
「いいだろ。理事長室のソファを買い替えるっていうから、古いやつもらってきたんだ。
気持ちいいよー、一緒に寝よっか」

 両腕を差し出してくる倉掛を無視し、おれは机に並んでパソコンを開いているふたりの生徒のほうを向いた。
 髪型から体格から、まったく同じシルエットだ。
 ふたりは示し合わせたように同時に振り向いた。

「知ってると思うけど一応紹介しとこうか。右が書記の本條新(ほんじょうあらた)、
左が会計の本條湊(ほんじょうみなと)。二年生だ」

 倉掛が言った。
 おれは軽く会釈をした。

「……一年四組の戸上りゅうです」

 正直どちらがどちらかわからない。
 本條兄弟は一卵性双生児で、新が兄で湊が弟だ。
 おれはふたりを当然のように見分ける倉掛に感心した。
 机の場所で覚えているのかもしれないが。

 新と湊はとても頭が良くて、当時一年だったのに能力を買われて生徒会メンバーに抜擢された。
 確か結構なお偉いさんの息子で、友崇ほどではないが金持ちだったはずだ。
 そう思って見ればふたりは上品そうな顔をしている。
 荒っぽいところがなくて、育ちの良さがにじみ出ている。

「よろしく、りゅう君」
「来てくれて助かるよ。いろいろ大変なんだ。倉掛先輩はさぼるし鳴瀬会長は忙しいし」

 ちらりと後ろを見たが倉掛は悪びれるそぶりをまったく見せない。
 大した副会長だ。
 奥のデスクが会長のものなのだろうが、今は誰も座っていない。
 鳴瀬には一言言ってやりたかったのに残念だ。

「さっそくだけど、はいこれ」

 湊が机の上に置いてあったプリントをおれに渡してきた。

「なんすかこれ」
「まだ会計報告書をあげてない部活のリスト。催促してるんだけどなかなか集まらなくて困ってるんだよねえ」

 湊はプリントをつつきながら口をとがらせた。

「今日こそはすべて出してもらう! てなわけでりゅう君、頼んだよ。全部まわって報告書もらってきて」
「これ報告書の見本。書きもれがないかチェックしてから受け取ってね」

 新がおれの手に別のプリントを押しつけてきた。

「じゃ、いってらっしゃーい」
「早めに帰ってきてくれよー。あ、でもちゃんと受けとるまで帰ってきちゃだめだからねー」

 まるで合わせ鏡を見ているような気分だった。
 おれはふたりを交互に見るのに忙しくて、なにも言い返せなかった。
 ふたりは寸分たがわぬほほ笑みでおれを送りだした。
 なんて人使いの荒い双子だ。


   ◇



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