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ブルー・デュール
桜 常 編

109

 夏休みが明け、中間試験も終わった。

 季節は秋。
 ブレザーを着る生徒がぽつぽつと現れだしたころ。

 桜常高校の文化祭が始まった。
 一日目は学内オンリーの開催だ。

 おれたち一年四組はコスプレ喫茶を開いた。
 コスプレの内容は、季節に合わせてハロウィンテイストだ。
 教室には電球を入れたカボチャお化けが飾られ、壁じゅうに星や妖精や魔女の切り絵が貼られている。

 喫茶店とは言え、メニューは市販の飲み物と業者から買った生菓子だけで構成されている。
 それでも客で大にぎわいだった。

 おれは裏方がいいと言ったのに、文化祭係の独断で接客係にさせられてしまった。
 コスプレなどおれはやりたくなかったのに。

「いらっしゃいませー! 何名様ですか?」

 慶多は臙脂のシャツに黒いマントをはおったドラキュラで、のりのりで接客している。
 顔が広いので、慶多が入り口に立つと面白いように人が集まってくる。

「ぎゃははは! 峻! お前かわいーなおい!」
「ありがとうございまーすっ」

 峻はひざ丈の黒いワンピースの上に白のレースエプロンという、どこか間違った魔女スタイルだ。
 サッカー部の先輩たちは大笑いしているが、本人が楽しそうなのでこれでいいのだろう。

 やはり峻は女装カフェがやりたかったに違いない。
 白いストッキングまではいていやに本格的だ。
 他人の趣味に難癖つけるつもりはないが、友人として複雑な気分だ。

「りゅう! 笑顔がたんねーぞ!」

 峻が両頬に人差し指を突き立てて小首をかしげてきた。
 見なかったふりをした。
 こんな屈辱的な格好で営業スマイルなんてできるか。

 次から次へと客がやってきて、おれはてんてこまいだった。
 ついたてで仕切られた裏方と客席をひたすら往復した。

「りゅう?」

 忙しいおれを呼びとめたのは、笑顔の眩しいサッカー部のイケメンで、未来の生徒会長と名高い生馬裕仁だった。
 生馬はおれを頭からつま先まで眺め、輝く白い歯を見せて笑った。

「りゅう……すごく似合ってるね」
「そりゃどーも」
「とってもかわいいよ。りゅうは子猫ちゃんって感じがするもんなあ」
「化け猫のつもりなんだけど」

 おれは苦笑いしてカチューシャの位置を訂正した。
 おれは文化祭係の独断で、猫耳としっぽをつけられている。
 ほかは制服のままでいいのかと思いきや、黒いシャツと揃いの黒い半ズボンまでしっかり用意されていた。
 ミニエプロンまで黒という徹底ぶり。
 頬に三本のひげを描かれ、どこからどう見ても黒猫コスプレだ。
 恥ずかしいこと山の如し。

「照れてるの? 本当にかわいいねえ」
「ぎゃっ」

 生馬は眉尻を下げてでれでれしながらおれの腰に手をまわした。

「やめろっ、おれは仕事中だっ」
「一緒に写真撮ろうよ。ね」

 こんな姿を形に残されるのはいやだ。
 しかし生馬はにこにこしながら有無を言わさず携帯で写真を撮った。
 ツーショットの。

 なぜだ、お前は鳴瀬が好きだったんじゃないのか。
 なぜおれなんかに鞍替えしたんだ。


   ◇



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