ブルー・デュール
桜 常 編
10
次の日、おれは倉掛に言われたことの一部始終を慶多に話して聞かせた。
なんとかしてくれと頼みこんだが、さすがの慶多も会長命令にいちゃもんをつける勇気はないようだった。
「別にいいじゃん。一応生徒会のメンバーになれるわけだしさ。あいつら聞いたら泣いて悔しがるぜ」
慶多は窓際で喋っている久河を顎で示した。
「しかし会長がそんなこと言うなんて意外だなー。仕事さえこなせればそれでオッケーって感じの、
そっけない人だと思ってたのに。りゅうに一目ぼれでもしたのかな」
「やめてくれ」
おれは飲んでいた紙パックのゼリー入り飲料を机に叩きつけた。
ストローの先から甘い水滴が跳びはねる。
慶多は頬杖をついたまま困ったように顔をかたむけた。
「いい加減慣れろよ。ホモ嫌ってたらここで生きてけねーぜ。
知ってるだろ生徒会信者の会長たちを見るあっつい視線」
「そんな学校だなんて知らなかったんだっ」
「わざわざ高校から入ってきたから、てっきりそれ目当ての筋金入りのホモかと思ったのに全然違ったな」
「お前なあ……そう思ってんのによく声かけてきたな」
「俺そんなの気にしないし。俺だってどっちもいけるし」
慶多はいい笑顔でとんでもないことを言った。
わかっていたつもりだが、あらためて言われるとショックだ。
高校だけでなく中学も同じ風潮らしく、言い寄ってくる者を無下にできず受け入れているうちに、
いつのまにか慶多も染まっていたらしい。
お人好しも度が過ぎるとろくなことにならないってことか。
「安心しろよ、お前はそんな風に思えないから」
「その言い方だと逆に腹立つな」
おれは慶多の椅子の足を軽く蹴ってから、ジュースを飲みほしてパックをつぶすと放り投げた。
パックは放物線を描いて開け放たれた後ろのドアを抜け、壁に当たってごみ箱に入った。
慶多は嬉しそうな声を上げた。
「ナイッシュー。お前バスケ部入れよ。今からでも遅くないぞ」
「嫌だ、めんどくさい」
面倒なのも嘘ではないが、本当はそんなことしているひまがないからだった。
夜はピースの回収やその下見に行くことがあるから、毎日くたくたになって帰宅するわけにはいかない。
学校はあくまで隠れ蓑なのだ。
◇
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