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サビイロ契約

6

 今日の浩誠はカッターシャツに灰色ストライプのベストを着て、サイズぴったりのブラックジーンズをはいていた。
 すらっとした体格の彼によく似合っている。
 内面がそのまま浮き出たような優しく整った顔立ちの浩誠は、こんな世の中でなければさぞかし女性にもてただろう。

 浩誠には警棒や刃物よりノートパソコンのほうが似合う。
 珂月は常々そう思っていた。
 しかし、どう見ても優男の浩誠の実際は腕の立つハンターだ。
 しかも、珂月の所属するハンターチームのリーダーだった。


   ◆


 珂月のアパートからさほど離れていないところに、浩誠のアパートはある。
 外見は珂月のアパート以上に古びていて、浮き出た釘から赤錆が流れ出ている。
 もうあまり残っていない木造建築で、浩誠以外に住んでいる者はいない。

 危なっかしく軋む階段を三階まで上ると、三つのドアが並んでいる。
 浩誠はそのうち二つを借りていた。

 302号室のドアには銀のプレートが貼りつけてあり、黒字で「DOGS NOSE」と書かれている。
 浩誠は錆の浮いたドアをがんがん叩いた。

「おーい! 帰ったぞー!」

 すぐにドアが開かれ、プリントシャツを着た酒くさい青年が顔を出した。

「リーダーお帰りー! おう珂月、お前も来たかあ。よーしよし」
「うん。……あわっ」

 青年は満面の笑みで珂月の腕を引いた。
 珂月はかかとを踏んでスニーカーを脱ぎ、引っぱられるまま部屋に入った。

「家主がいないのにもう飲んでいやがるのかよ」

 浩誠は苦笑しながらドアを閉めた。

 このアパートは4LDKで、302号室は部屋の一つがぶち抜かれて巨大なリビングとなっている。
 ここは浩誠の部屋だが、彼が作ったハンターチーム「ドッグズ・ノーズ」の本拠地でもあるので、たくさんのメンバーを収容できるようにリフォームしてあるのだ。
 奥の部屋は浩誠の自室で、残る二つは倉庫になっている。
 303号室は主にメンバーが寝泊まりするのに使われている。

 リビングに家具らしい家具はなく、十人ほどのメンバーが床に置かれた酒を囲んで座っている。
 まだ昼前だというのに、酒盛りの真っ最中だった。

「珂月ーお前も飲めよおー」

 珂月は無理やり輪に加わらされた。
 一人が手際よく珂月のボディバッグを取って隅に放り、一人が珂月の前に酒瓶を置く。
 珂月はラベルを見て顔をしかめた。

「おれ焼酎なんか飲めないよ」
「はあー? しょうがねえなーお子ちゃまは」
「お子ちゃまにはこれだな。ほれあーん」

 顔を真っ赤にさせたメンバーが珂月の口元にスナック菓子を突きつけてきた。
 珂月は大人しくスナックをほおばった。
 酔っぱらいになにを言っても聞き入れてもらえないことは、重々承知している。

 ドッグズ・ノーズの構成員はほぼ二十代前半で、ハンターの組織にしてはかなり若い。
 それゆえ、お遊び半分のヤンキーチームと揶揄されることも多いが、浩誠はなんと言われようと笑い飛ばしていた。

「あっずりいー俺もなにかやりてえ!」

 珂月がスナックをもぐもぐさせていると、入り口で出迎えた青年が口を尖らせてするめいかを手にとった。

「ほら珂月、あーんっ」
「あーはいはい……」

 珂月は仕方なくするめいかを食べさせられてやった。
 ドッグズ・ノーズの中でも特に若い珂月は、小柄で女顔な容姿も相まって、チームではペット扱いだった。

 しばらく珂月はそうやって、あちこちからつまみを食べさせてもらっていた。



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