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サビイロ契約

81

 それから半日ほど泥のように眠り、目が覚めると再び五十井がやってきて珂月はまた抱かれた。
 珂月はもう抵抗しなかったが、体も心も痛くて仕方がなく涙が止まらなかった。
 五十井は声を殺して泣く珂月を咎めはしなかった。
 それどころかほの暗い笑みを浮かべ、涙を大切なもののように丁寧に舐めとった。
 最初ほどひどくはされなかったが、ルザの印の上にはきっちりと新しい歯型をつけられた。
 タトゥーで描かれた血の上に鮮血が流れた。

 珂月を好き勝手に扱って満足した五十井は、白濁まみれの珂月を汚いと言って風呂に連れていった。
 そこで珂月は初めて部屋の外に出た。
 扉の向こうは珂月のつながれている部屋の半分ほどの狭い部屋で、煙草の匂いが充満していた。
 通気口はあるが窓はなく、片開きのドアが正面と右脇についていた。

 狭い部屋の中央には長方形の黒いテーブルと、くたびれた長ソファが一つとパイプ椅子が三つ置いてあった。
 ソファの上には毛布がぐしゃぐしゃになってかけられており、いましがたまで誰か寝ていたように見えた。
 テーブルの上には吸殻の入った灰皿と伏せられた雑誌が放置されている。
 珂月の見張り役である五十井の部下のものだろう。

 五十井は右脇のドアを開けて珂月を中に押しこんだ。
 中は珂月のアパートのものと似たユニットバスだった。
 洋式トイレの奥に洗面台とバスタブがついている。
 五十井は一緒に入るとドアを閉め、珂月がまとっていたシーツをはぎとると体を洗えと言ってきた。
 珂月は五十井の見ている前で用を足してシャワーを浴び、中に出されたものをかきだした。

 全身を洗い終え、置いてあったバスタオルで髪と体を拭いた珂月は、ドアに寄りかかる五十井に視線をやった。
 ずっと珂月を見ていた五十井は無表情のまま口を開いた。

「なんだ」
「……着替えが欲しいんだけど」
「服を着たいのか?」

 シーツを持ったまま、五十井は小馬鹿にしたように笑った。

「お前に服なんか必要ない。人前に出ることなんてないんだからよ。いちいち脱がすのも面倒くさい」

 珂月はそれ以上なにを言っても無駄だと感じて押し黙った。
 五十井にとって自分は対等な人間ですらないということを、珂月は失念していた。

 元々珂月は五十井に好意など持っていなかったが、シンク・ベルの優秀なボスとして畏敬の念を抱いていたことは確かだった。
 丁寧な口調と穏やかな物腰にどこか違和感を感じながらも、彼のために精一杯働いてきた。
 それをここまであからさまに豹変されると、切なさを通り越して笑えてくる。
 五十井は珂月やハンターたちや大多数の人間のことを、都合のいい駒か道端の野良犬くらいにしか思っていないのだろう。
 理不尽な待遇や搾取をすることに、一抹の罪の意識を持つこともない。

 珂月は再びシーツをかぶり、うなだれて部屋に戻るとベッドに丸くなった。
 五十井は珂月の首輪に元通り鎖をつけ、珂月の頬を指でくすぐるようになでてから去っていった。
 それはペットを愛でる飼い主の仕草そのものだった。


   ◆


 それからどのくらい時間が経ったのか、時計も窓もない部屋ではよくわからなかった。
 食事をした回数から考えると、連れてこられてから三日ほど経っているだろうか。

 五十井はふらりと部屋にやってきては珂月を乱暴に抱いた。
 縛られ叩かれなじられ痛みや屈辱に涙をこぼす珂月を眺め、五十井はぎらついた目を細めて笑うのだった。

 悪夢のような時間が終われば、珂月は眠りの世界に逃げこんだ。
 だが、食事の時間になると否応なく起こされて食べさせられる。
 トイレに行きたいと言えば、隣の部屋で待機している五十井の部下に連れていってもらえるが、
バスルームまで見張りが入ってくるので見られながら用を足すしかない。
 それはまっとうな人への待遇ではなかった。
 珂月はこの短期間で、感情を心の奥底にしまいこむようになっていた。



「あっ! あぅっ、んんっ……」
「おい、もっと足広げろ」

 五十井の命令が冷たく飛んでくる。

 珂月は何度目かわからない情事に耐えていた。
 ベッドに仰向けになり、大きく広げた両足を自分の手で支えさせられている。
 五十井は珂月の上に覆いかぶさり、羞恥に真っ赤になりながら快感に耐える珂月の顔を眺めながら、濡れた秘部に指を二本突き入れて抜き差ししている。
 潤滑剤がちゅくちゅくと水音を立てて珂月を聴覚からもさいなんでいる。
 奥を思いきり突かれると、甘い痺れに足がびくりと震えてしまう。

「ひっ、んあぁっ、だめっ」
「嘘つくなよ。んなエロい顔しやがって。なにがだめなんだ?」
「ひうっ……いっいきた……っ」

 珂月はあえぎ声の合間に、濡れた目で五十井を見上げて訴えた。
 天を向く珂月の自身は痛々しいほど張りつめているが、根元を太い飾り紐でくくられているので達しようにも達せない。
 その状態のまま延々と後ろの感じるところを攻められ続け、とっくに限界を越えていた。

「いきたいのか?」

 五十井は悪意のこもった笑みを浮かべた。

「そういうときはなんて言うんだ? 珂月」
「んっ……あ!」

 言いながら内部のしこりを挟んで刺激され、珂月は体をくねらせた。

「あっあっ、いかせ、て……ください……」
「どうやって?」
「これっ、外し、て……」


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