79 「お前は俺のものだ。いいな。お前はここで、俺の言うことだけ聞いていればいいんだ。……いい子にしてれば、なにも痛いことはしねえよ」 五十井は青ざめる珂月を見下ろし、口角をつり上げた。 恐怖に縮こまる珂月の自身へ布越しに銃口を押しつけると、珂月の唇が一層白くなった。 セーフティー・レバーが上がっているのでこのままでは発砲できないのだが、拳銃を持ったこともない珂月は知るよしもない。 五十井は珂月が怯えるさまを眺めて満足げに笑った。 逆光を背負って狩人の目で笑う五十井の姿に、珂月は絶望を感じた。 初めてルザに出会ったときと同じく、くつがえせない力の差を見せつけられた気がした。 「口を開け」 五十井は拳銃を懐にしまいながら、顎をあげて命令した。 珂月がこわばった筋肉を動かしてなんとか口を開くと、噛みつくようにキスされて舌を口腔にねじこまれた。 「んっ、ん、う」 厚い舌に口内を犯され、珂月は固く目を閉じてやり過ごそうとした。 だが五十井のキスは強引で荒々しく、息をすることすらままならない。 顎をつかまれて無理やり舌を絡まされ、唾液を送られる。 閉じた瞼を震わせて必死にキスに応えようとする珂月を、五十井は至近距離から視線で犯すように眺めた。 酸欠で珂月は瞼の裏がちかちかした。 「っは……あ!」 ようやく解放されてわずかに気を緩めるやいなや、いつのまにかくつろげられていたズボンの中に手を差しこまれた。 五十井はわざとゆっくり下着をずらしていき、怯えて瞳を震わせる珂月を見下ろしてほくそ笑んだ。 五十井の大きな手が珂月自身を包み、上下にしごきだした。 珂月は眉根を寄せて刺激に耐えた。 「気持ちいい?」 珂月の耳元で五十井が囁いた。 珂月は否定することもできず、ただぎゅっと目をつぶって下唇を噛んだ。 五十井はそんな珂月に機嫌よさそうに笑い、どんどん手の動きを早めていく。 次第に珂月の眉間のしわが取れていき、吐息が熱くなってきた。 「あ、んっ」 自身の先端を指の腹で強く押され、思わず声がもれてしまった。 「大きくなってきた。気持ちいいんだ?」 「やあ……あ、あっ」 にじみ出る先走りを塗りこめながらしごかれ、珂月の背中が弓なりに跳ねた。 無理やり快楽を引き出され、恐怖との狭間で揺れるが、やはり人の手で与えられる快感にはあらがえない。 珂月はすっかり四肢の力を抜き、五十井の好きなようにさせていた。 すっかり自身は天を向き、五十井の手の中でくちゅくちゅと水音を立てている。 珂月はベッドのシーツを握りしめ、頬を紅潮させてあえいだ。 「あっあっ、やっ、だめっ……」 「イくのか? あ? くく、さっきまで怖がってたくせに、淫乱。ダラザレオスが執着するだけはあるな」 「ひゃうっ!」 意地悪するように自身の根本をつかまれ、揚げたての魚のように珂月の体が跳ねた。 やめてくれと懇願をこめて五十井の腕に手を添えると、五十井は珂月の足を割ってあいだに体を滑りこませ、真上から珂月の顔を覗きこんだ。 珂月の潤んだ辛そうな視線と、五十井のどう猛な獣のような視線が交差する。 「イきたいのか? 答えろ、珂月」 珂月は荒い息をはきながら、一つこくんと頷いた。 「ならイかせてくださいってお願いしてみろ。俺を見ながらな」 五十井はそう言って追いつめるように裏筋をなでた。 珂月はとろけた理性の中でもその台詞を口にすることに屈辱を感じたが、ほかに選択肢はなかった。 珂月は揺らぐ視界の中、なんとか五十井を見据えた。 快楽にゆがんだ顔で切なげに必死に見上げてくる珂月に、五十井は生唾を飲みこんだ。 「い、いかせて、くださ……」 半泣きになりながらなんとか口にしたが、五十井は珂月をじっと見つめたまましばらく動かなかった。 珂月は早くなんとかして欲しくて、睨むように五十井を見上げた。 扉を叩く音がして、五十井は少し肩を揺らして顔を上げた。 「……なんだ!」 五十井がいらだちを隠そうともせず怒鳴ると、分厚い扉の奥からか細い声が答えた。 「ボス、本家からお電話です」 五十井はさっと珂月の上から身を引いた。 「親父からか?」 「はい。至急お話したいことがあるとかで……」 「わかった」 五十井は身を翻して、珂月を振り返りもせず扉の向こうに消えた。 重々しい音が響いて鉄扉が閉まると、珂月のいる部屋は静まり返った。 しばらく珂月はその状態のまま扉を見つめていたが、五十井が帰ってくる様子はない。 張りつめたままの自身が痛かったが、勝手に達して五十井の不興を買うことだけは避けたかった。 つい先ほど植えつけられた恐怖が珂月の全身を取り巻いている。 ←*|#→ [戻る] |