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サビイロ契約

69

「ああっ、だめっだめっ、んあっ……やっ!」

 珂月は甲高い声をあげて首をのけぞらせた。
 浩誠はわずかに口角をあげて珂月の表情を眺めた。
 普段の優しいお兄さんの姿はどこかへ消え、今の浩誠は欲望に突き動かされる獣の目をしていた。

 何度も弱いところを責められて珂月は視界が涙でにじんできた。
 浩誠は珂月が再び限界に近づいてきたのを察すると、己のズボンの前をくつろげ、とっくに存在を主張していたものを珂月の秘部にあてがった。

「珂月……」
「あっ……あ」

 熱い楔の先で会陰部をなでると、珂月は半分目を閉じて期待するように体を揺らした。
 浩誠はその普段からは想像もできない姿に矢も楯もたまらず、己の猛ったものを突き刺した。

「あああっ!」

 入れられた衝撃で再び達しそうになり、珂月は浩誠の背中に爪を立てた。
 浩誠はゆっくりと動いた。
 ルザの荒っぽい抱き方を覚えてしまった珂月には、浩誠の緩慢な動きがじれったくてたまらなかった。
 やめたいだなんて理性的なことを考えることはもうできない。
 もっと刺激が欲しくて、珂月は自分から腰を揺らした。

「珂月……っ」

 浩誠は何度か口づけを落としながら、じっくりと珂月の中を味わった。

「んあっ、やっ、ああっ……」
「珂月……かわいい」

 頬を紅潮させて必死に快楽を追う珂月の姿はひどく色っぽかった。
 浩誠は珂月が達するか達さないかのぎりぎりのラインで責め続けた。
 それが珂月にとって苦しいものだとわかっていながら、浩誠は自分の欲望を満たすためだけに動いた。

「あっあっぁ……浩、兄……っ」

 珂月は限界を示すように浩誠を見上げた。
 浩誠は珂月の足を持ち上げ、最奥を突きまくった。
 珂月は甲高い声をあげて体を震わせ、二度目の絶頂を味わった。

 浩誠も珂月の中で達し、珂月は徐々に理性を取り戻していった。
 浩誠は大変なことをしたと青ざめる珂月をなだめるように、何度も頭をなでてキスをした。

 珂月は緊張がぷつりと解け、そのまますっと寝入ってしまった。


   ◆


 珂月は寝返りを打とうとしたが、なにかにがっちり体を固定されていてできなかった。
 寝ぼけながらしばらく奮闘していた珂月だったが、ふと目を開けてみると、眠る浩誠にしっかりと抱きしめられていた。

 珂月は状況が理解できなくて、浩誠の腕の中で首を動かした。
 ここはリビングの隣の浩誠の自室で、浩誠のベッドに二人で寝ているようだ。
 壁には浩誠気に入りのサッカーチームのポスターが貼られ、机の上は本やヘアーワックスやハンター道具などがきちんと整頓されて置かれている。
 背もたれから綿がはみ出している二人がけソファには、浩誠がよく着ているジャンパーが無造作に放置されていた。

 夜明けの柔らかい日差しの中でぼうっとしていた珂月は、ふと昨夜のことを思い出して血の気が引いた。
 慌てて自分の格好を確認してみると、浩誠のTシャツとハーフパンツを着ていた。
 珂月が眠ってから浩誠が着せてくれたようだ。

 珂月は安らかに眠る浩誠の寝顔を見つめた。
 昔からずっと見慣れてきた顔だ。
 その浩誠が、あんな想いを抱いていたなんて、珂月はちっとも知らなかった。
 もっと前に気づいていれば、こんなことにはならなかったのだろうか。
 そう考えて珂月は己の鈍感さに嫌気が差した。

 珂月はそっと浩誠の腕を持ち上げてベッドから降りたが、浩誠はみじろぎ一つしなかった。
 珂月はソファに乗せてあった自分のボディバッグを取り、そっと浩誠の部屋をあとにした。

 外はかつての大都市とは思えないほど澄んだ冷たい空気で満ちていた。
 肌寒い夜明けの東京郊外を、珂月は全速力で駆けた。
 雀があちこちでうるさくさえずっては、エサを探して仲間と一緒に飛び立った。

 珂月は自分のアパートまで走ったが、ほとんど息を切らせていなかった。
 珂月の頭は浩誠やルザやシンク・ベルのことでいっぱいで、疲れなど感じている余裕はなかった。

 部屋につくと珂月はすぐに鍵を閉め、靴をはいたままほっと一息ついた。
 部屋は相変わらず散らかっている。
 狭い流しにはレトルト食品のトレーが山積みになり、部屋じゅうに未洗濯の服が散乱している。
 だがそんなこ汚く狭いアパートでも、珂月は自分のテリトリーに帰ってきた安心感に包まれた。

 珂月は浩誠のシャツを着たまま、ベッドに倒れこむようにして寝転がるとたちまち夢の世界へいざなわれていった。

 太陽が一番高く上るころに珂月は目を覚ましたが、だからといって特になにもしなかった。
 ただぼんやりとベッドに横になり、古い雑誌を読み返したりして過ごしていた。
 当直なのに勝手に帰ってきてしまったので、笠木か誰かシンク・ベルの使いが来るかと思ったが、誰もたずねて来なかった。

 そして夜、動かなかったのでお腹の空いていない珂月は配給のパンで夕飯をすませ、ベッドでまたごろごろしていた。

 そこに突然ベランダで大きな物音がして、珂月は飛び起きた。
 鍵の壊れた窓が開き、ルザがひょっこりと顔を出した。

「明かりついてたからもしやと思って来てみたら、いたよ。今夜は当直じゃなかったのか?」

 ルザはベッドの上で縮み上がっている珂月を見てきょとんとして言った。
 珂月は大きくため息をついた。

「お、脅かすなよ……」
「はあ? 今さらだろそんなん」


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