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サビイロ契約

53

 しばらくしたのち、バイラは全て駆逐された。

 静かになった駐車場に、嫌な匂いが立ちこめている。
 ルザは座りこんだ珂月の元に戻ってきて手を差し伸べた。

「ほら、怪我ないかよ」

 珂月が反応しないので、ルザは珂月の脇に手を入れて立たせた。
 珂月はそれでもルザを見つめるばかりだった。
 ルザはいつの間にかサングラスを外していた。
 人を食ったようないつもの表情で、バイラの死骸を背に平然としている。

「おい、なんとか言えよ。おい。珂月?」
「あ、うん……平気」

 珂月は頬をかきながら言った。
 地面に落とされた衝撃で少し腰が痛んだが、大したことではなかった。

「……ルザ」
「ん?」
「その……助けてくれて、ありが――」

 言い切らないうちに、生き残ったハンターたちがこちらに来ていることに気づき、口を閉じた。

「おい、あんた、すごかったな」

 一番初めにバイラに気づいたハンターが、畏怖の表情でルザに言った。

「あんな動きが人間にできるとは思えねえ……一体何者なんだ?」

 ルザは珂月に対する態度とは一転し、不機嫌そうに眉根を寄せた。
 人間に軽々しく声をかけられることが気に入らないのだ。
 珂月はぼろが出ないうちに慌てて取り繕った。

「あの、この人はシンク・ベルのハンターなんだ。おれたちパートナーで、あの、いつもこういう戦い方なんだ」
「シンク・ベル!? へえ……噂以上の化け物っぷりだな。パートナーってことは、あんたもそうなのか?」
「シンク・ベルかってこと? そうだよ。最近入ったんだけどね」

 珂月はボディバッグからシンク・ベルのハンター証を出して見せた。
 ハンターたちは顔を寄せ、食い入るようにハンター証を見つめた。

「すげえ、初めて見たよ。いや、本当に強いんだな。恐れ入った」
「あんたらのおかげで助かったよ。命拾いした」
「ああ、そりゃどうも……」

 珂月は苦笑いし、質問を適当にあしらってその場を離れた。

 珂月は隣にいるルザを見上げた。
 先ほどのルザは吸血鬼そのものだった。
 仲間であるはずのバイラを容赦なく倒していくルザは、心から狩りを楽しんでいるようだった。

 珂月のために食事を用意するルザと、笑みを浮かべてバイラの骨を砕くルザ。
 どちらが本物のルザなのか、珂月にはわからなかった。
 血にまみれた手を差し出されて優しい言葉をかけられても、どう反応していいのかわからない。
 ルザにしがみつきたい気もするが、果たしてそれは許されることなのか、わからなかった。



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