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サビイロ契約

22

「あれ、珂月? 寝ちゃったのー?」

 アスタルトが頬を叩いたが、酒が入った上に手荒い淫行で疲れきった珂月は起きる気配がない。

「なんだよー、僕も入れたかったのに」
「寝ちまったもんはしょうがねえだろ。ベッドに持ってくからそこどけ」

 ルザは珂月を抱いてベッドに横たえると、腕と足に引っかかっていたシャツとズボンを脱がせて裸にした。
 服を丸めて洗濯かごに放りこむと、干してあったタオルを洗面所で濡らして体を拭き始める。
 顔から順に、足まで丁寧に汚れを拭っていった。
 珂月は敏感なところに触れられると指を動かしたが、深く寝入っているようで目覚めなかった。

 ルザは珂月の体を綺麗にすると、ベッドの足元に放ってあった部屋着を着せてやった。

「驚きだよ」

 残ったワインを飲んでいたアスタルトが言った。

「君がそこまでするなんて……よっぽどその子がお気に入りなんだね」

 ルザはベッド脇にあぐらをかいて座り、珂月のあどけない寝顔を見つめた。
 本来なら、人間はルザを見ただけで命からがら逃げ出すはずの存在だ。
 そんな彼にすべてを預け、こうして安らかに眠っていられるのは珂月くらいなものだろう。

 ルザは珂月の額にかかった髪の毛をそっと分けてやり、愛しくてたまらないとばかりにほほ笑んだ。
 長いつき合いのアスタルトでさえ、ルザのこれほどまでに穏やかな笑みは初めて見るものだった。

 ルザは静かに言った。

「こんなに弱くて、すぐ壊れそうだから、放っておけないんだ。これほど極上の血を持つ人間はほかにいない。
俺がついてないと、すぐ誰かに取られちまうんじゃないかって不安になる」
「血がおいしいから生かしてるの? 一気に飲んじゃうともったいないから?」
「ああ……そう思って初めて会ったとき殺さなかった。それだけの理由だったんだけどな」
「今は違うの?」
「さあな」

 アスタルトは頬杖をつき、旧友が人間に寄り添う姿をじっと眺めた。
 アスタルトの鋭い目に金髪がひと房かかっている。

「でもルザ、珂月は君のことを恐ろしい存在だって思ってるんじゃない? 人間は僕たちを恐れるものだよ」

 ルザは答えなかった。

「僕たちダラザレオスは人間を襲う。この世界は僕たちが来たから変わってしまった。
……珂月だって、いつか君に殺されるってわかってるはずだ。その胸の印があるかぎり」
「そうかもな」

 ルザは鋭い犬歯を舌で舐めた。
 彼は今も血に飢えている。
 最高級の獲物を目の前にして、乾きと戦っている。

「……それでもいい。ほかの奴にくれてやるくらいなら、珂月は俺が殺す。
こいつに手を出したら、お前でも容赦しねえからな。アスタルト」

 アスタルトはルザの飛ぶ鳥も射殺すような眼光にさらされ、背筋が寒くなった。

「わかってるよ……」

 アスタルトはそっとルザの前に膝をつき、手を伸ばしてルザの胸元に下がる銀のペンダントヘッドに触れた。

「僕は君の友人であると同時に、あなたの忠実な部下ですから……ルザクローフ閣下」

 ルザは黙って立ち上がり、眠る珂月を見下ろして言った。

「帰るぞ」

 二人は窓から姿を消した。



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