サビイロ契約
115
珂月はやれやれと肩を落とし、優しく声をかけた。
「斎珪さま。納得してください。なにかあればおれに言ってもらえれば、できるかぎり対処しますから」
斎珪はいたく矜持を傷つけられたらしく、しばらくルザを睨んでいた。
しかしいくら彼でもダラザレオスは恐ろしい存在であるようで、なにも言わずにとぼとぼと外に出てバスに乗りこんだ。
大型バス二台が去っていくのをホールから見送りながら、珂月が言った。
「あの人は、神会ヶ村で絶対だった。きっと生まれたときから皆に信奉されて育ったんだろうね。小さな王国の王様だったから、いきなり平民になってとまどってるんだ」
「……そうか」
ソファに座るルザは難しい顔で、両膝にひじをついて床を見つめている。
「なら、俺ともそんなに変わらねえのかもな」
「え?」
「ここだって、小さな国だろ。俺も、同じだ」
そう呟くルザを、珂月はぎゅっと抱きしめた。
ルザの背中が小さく見えた。
珂月とルザは市庁舎から少し離れたところにある二階建ての家に帰った。
ここはルザと珂月にあてがわれた家で、この辺りで一番豪華な造りになっている。
洋風の家を囲む低い煉瓦の塀には蔦が巻かれ、黒い屋根にはソーラーパネルが設置されている。
白い壁に黒い縁取りのされた縦長の窓が並び、ベランダの手すりには植木鉢の花が飾られている。
玄関で二人を出迎えたのは、この家の清掃や管理を任されているルザの部下だった。
彼は二人の無事の帰宅を喜び、美しく整えられている室内に家主を迎え入れた。
ルザはリビングに入ったそうそう、部下の男にもういいから休めと言った。
部下も心得た様子で、すぐに荷物をまとめるとバイラを呼び出してベランダから帰っていった。
ルザは珂月のリュックサックをローテーブルの上に置いてカウチソファにごろりと横になった。
珂月はリュックを開けて中を調べ始めたが、ルザが横になったまま声をかけてきた。
「珂月、そんなの後にしろ。俺は疲れてんだよ」
「ああ、うん。ご飯作ろうか?」
「そうじゃねえだろ」
珂月が首をかしげると、ルザは珂月に向かって人差し指をちょいちょいと持ち上げた。
「こっちに来い」
「うん」
珂月は言われるがままソファに近づいた。
ルザは体を起こし、珂月を隣に座らせると顎に手を置いて上を向かせた。
そのまま顔を近づけ、軽くキスをする。
「んっ……」
珂月は大人しくキスを受けていたが、次第にキスが深くなっていくので眉間にしわを寄せた。
「ん、ん……あ、ルザっ」
「なんだよ」
「疲れてるんだろ? 休まなくていいのか……」
ルザは鼻がくっつきそうなほど近くでにやりと笑い、珂月の内股にするりと手をはわせた。
熱くなりかけている中心に布越しに触れられ、珂月はかっと顔を赤らめた。
「キスだけでこんなにしてる奴の口から出る台詞じゃあねーなあ」
「これはっ、その……ちがうんだって」
「なにが違うんだよ……俺の手が恋しかったんだろ?」
不敵に笑うルザに珂月は言い返すことができなかった。
この一週間、ルザを思わない日はなかった。
ルザの愛撫を思い出してはうずく体を押さえてきたのだ。
「んう……」
「ほら、欲しいって言ってみろよ」
ルザは優しくズボンの上から珂月のものをなでた。
珂月は頬を真っ赤にし、唇をきゅっと結んでルザを睨んだ。
ささやかな抵抗のつもりだが、ルザを煽っていることに珂月が気づくことはない。
「あ、触るなっ……」
「珂月」
「あ、うっ……」
珂月はルザの肩に手を置き、顔を見られないように下を向いて小さな声で言った。
「……もっと、ちゃんと触って……」
「触るだけ? ほかには?」
珂月は身をよじらせ、ルザの首に両腕を回した。
焦らされ煽られ、たまらなくなったのか、恥じらっているのが面倒になったようだった。
「ルザのが欲しい……! ちょうだいっ……」
「よしよし」
ルザは満足げに頷き、珂月の服を脱がしにかかった。
一つ一つ丁寧にボタンを外して肌をあらわにしていく。
珂月も負けじとルザの上着を乱暴に脱がし、シャツに手をかけた。
互いに一糸まとわぬ姿になり、珂月はルザの膝の上に乗っかって自分から口づけた。
珂月のキスは稚拙でたどたどしかったが、ルザは好きにさせておいた。
慣れない様子で必死に求めてくる姿のほうが彼の好みだった。
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