サビイロ契約
108
不意に太ももを徘徊していた手が自身を激しくしごきだし、過ぎる刺激に珂月は目の前が一瞬真っ白になった。
「んんん……!」
声にならない声をあげ、珂月は何度目かの絶頂を迎えた。
珂月はだんだんおぼろになっていく意識の中、口内のものがひときわ硬度を増したのを感じた。
斎珪は自身を珂月の口から引き抜き、何度か手でしごいて珂月の顔に白濁をかけた。
「ほら、これでお前の悪いものはすべて清められたぞ……」
斎珪が言った。
「う……」
ぐらりと珂月の体が横に倒れかけたのを男の一人が支えた。
斎珪は身なりを整え、ぐったりと男にもたれかかる珂月を見下ろした。
「洗礼は終わりだ。お前達、こいつを洗って着替えさせてから閉じこめておけ」
「へえっ」
珂月は男に抱えあげられたのを最後に、なにもわからなくなった。
◆
次に珂月が目を覚ましたのは、小さな部屋の薄い布団の中だった。
だるい体を起こしてみると、見知らぬシャツとズボンを着ていた。
柄のないシンプルな薄茶のシャツに、色がはげたような黄土色の薄いズボンだ。
部屋は四畳半ほどの広さで、珂月が寝ている布団の横に座布団が数枚重ねられ、文机が一つ、茶棚が一つ置かれている。
窓は格子つきのこじんまりしたものが一つだけ。
どうやら倉庫に押しこめられているようだ。
珂月はしばらく状況が飲みこめなかったが、服を見つめているうちに記憶が一挙に戻ってきて、足を抱えてうなだれた。
なんという辱めを受けさせられたのだろう。
奇妙な村だと初めから感じていたが、さま付けで呼ばれる男が初対面の珂月に口で奉仕させる変態だとは。
あの従者らしき二人の男は、斎珪の実態を知っていてなお、村での地位を得るために進んで斎珪に仕えているのだろう。
村人たちの斎珪への信頼を見るかぎり、よそ者の珂月がなにを言っても信用されないだろう。
この村に珂月の味方になりうる者はいない。
珂月は絶望にかられるしかなかった。
珂月は布団からはいだし、戸を開けようとしたがびくともしなかった。
窓には格子がはまっているし、脱出は不可能に思えた。
もっとも、脱出できたところで行くところもないのだが。
珂月はなすすべなく、布団の上に転がって丸くなった。
これからどうすればいい。
無線機はリュックサックの中に置いてきてしまったし、ここにいることは誰も知らない。
このままこの村で暮らさねばならないのだろうか。
斎珪に怯え、村のおかしな慣習にしばられてなんの楽しみもない生活を送ることになるのだろうか。
「そんなの嫌だ……」
珂月はうなるように呟き、胎児のように丸くなった。
ふと、誰かの足音が近づいてきて、珂月はぱっと上半身を起こして戸を見据えた。
足音は珂月のいる部屋の前で止まり、金具を外す音がして戸が開いた。
そこにいたのは、珂月を弄んだ二人の男の片方だった。
手にお盆を乗せている。
「飯だ。食えよ」
男は入り口に盆を置いた。
盆には水の入ったコップと、茶碗に盛られた白飯、深皿に入った大根やたけのこのごった煮が載っている。
珂月がじっと男を見上げたまま動かないでいると、男は興を削がれたようで黙って戸を閉めようとした。
「待って!」
珂月が叫ぶと、戸を半分閉めた男が顔をのぞかせた。
「なんだ?」
「あの、おれなんでここに閉じこめられてるんですか? 外に出してもらえないんですか?」
「よそ者を村に放るわけにはいかねえ。余計なこと吹きこまれちゃたまんねえしよ。
特にお前は斎珪さまに気に入られてっから、出すわけにゃいかねえな。まあ、ここにいりゃおまんまにゃ不自由しねえよ。
村の連中が毎日米とか野菜とか持ってくっからな。お前にも食わしてやるさ」
「いつまでここにいなきゃならないんですか? おれ、帰りたいんですけど」
「斎珪さまに聞いてくれ。斎珪さまがいいって言やあ、出してやるさね」
「斎珪さまは今どこに……」
「斎珪さまは忙しい。今は出てるよ。そのうち会いに来てくれるさ」
男は小馬鹿にしたように笑い、今度こそ戸を閉めて鍵をかけた。
珂月は仕方なく盆を机に乗せ、座布団を一枚敷いて箸を取った。
ご飯を前にすると思いだしたように腹が鳴った。
珂月はごった煮と白飯をかきこんだ。
ごった煮は大味でしょうゆくさかったが、すきっ腹にはありがたかった。
米の一粒も残さず食べた珂月は盆を入り口の前に置き、また布団に転がった。
天井の隅に蜘蛛の巣がはっている。
こうなったらなるようにしかならないだろう。
珂月は早々に行動を起こすことを諦めた。
自分は斎珪の手の平の中だ。
彼の気まぐれにしばらく付き合ってやるしかない。
余計なことをしてさらに事態を悪化させるくらいなら、食っては寝るだけの生活に甘んじてやろうではないか。
珂月は深くため息を落とし、目を閉じた。
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