サビイロ契約
106
「こっちに来い」
斎珪は上着の裾をひるがえして歩いていく。
珂月は黙って従った。
屋敷の中はかぐわしい木の匂いで充満していて、廊下は歩くたびに軋んだ。
なんの飾りっけもない土壁には汚れが目立つ。
建って三十年は経っていそうだ。
廊下をまっすぐ進み、つきあたりの引き戸を開けると、斎珪は珂月の背中を押して中に入れた。
強く押されてつんのめりながら敷居をまたぐと、斎珪は中に入らずぴしゃりと戸を閉められてしまった。
「あのっ……」
珂月が慌てて戸に向かって声をかけると、斎珪はそこで待っていろと言って床を軋ませながらどこかへ行ってしまった。
珂月は仕方なく部屋で待つことにした。
がらんとしてなにもない広い部屋だった。
入り口は珂月が入ってきた戸一つだけで、格子のついた窓が両脇についているが出られそうにない。
することもない珂月は、部屋の中央に座って斎珪を待った。
珂月が部屋を見回していると再び戸が開いた。
振り向くと、斎珪の後ろから二人の男が続いて入ってくるところだった。
男たちは質素な麻の揃いの服を着ており、珂月を見るとにやりとほくそ笑んだ。
「この子ですかい」
「ほう……斎珪さまのお眼鏡にかなうのも頷けますなあ」
斎珪は悪友にするように二人に笑いかけた。
三人は珂月を囲み、斎珪が言った。
「よし、脱がせろ」
「へえ」
一人が珂月の背後にしゃがみ、もう一人は珂月の前に膝立ちになりダッフルコートに手をかけた。
珂月はぎょっとして脱がせようとする男の手をつかんだ。
「ちょっと、なにするんですかっ」
「黙ってろ。斎珪さまに逆らうのか」
「この村で斎珪さまに逆らう奴は罰せられるぞ。なにも痛いことしねえから、大人しくしとけ」
二人はやはりおかしなイントネーションで言い、有無を言わさず珂月の服を一枚一枚脱がせていく。
その妙に慣れた手つきといい、目の前の男が笑いをこらえきれず口端をひくつかせていることといい、嫌な予感しかしない。
立ち上がろうとすると腕を引っ張られて止められた。
珂月は座ったままダッフルコートをはぎとられ、パーカーを脱がされ、靴とジーンズも取られてしまった。
最後に下着に手をかけられ、さすがに抵抗しようとしたが、目の前の男に罰を食らいたいのかと脅されて首を縮めた。
一糸まとわぬ姿になり、珂月の白い肌が三人の目にさらされた。
白木の床が臀部に冷たい。
羞恥に顔を歪め、局部を隠すように足を折り畳む仕草に斎珪はごくりと唾を飲みこんだ。
「……なんだこりゃ? こいつイレズミ入ってますぜ」
男が不思議そうに珂月の左胸に描かれたタトゥーを指でなぞった。
男の太く熱い指になでられ、珂月は身を震わせた。
「そうか」
斎珪はタトゥーにそれほど関心を示さなかった。
「それより、早くあれを出せ。洗礼を始めるぞ」
「あ、へえっ」
珂月の背後にいる男は急いでふところから小瓶を取り出し、珂月の肩越しにもう一人の男に手渡した。
珂月は小瓶の中で透明な液体が鈍く揺れるのを不安げに見つめた。
男は珂月の足を無理やり開いてあいだに身を滑らせ、瓶の栓を抜いて脇に放った。
そして瓶を珂月の体の上でかたむけた。
中の液体が珂月の裸の胸にこぼされ、珂月は身をすくめた。
「つめた……」
液体は粘度が高く、ねっとりと下に流れていく。
とろとろと腹を伝い、縮こまった珂月のものを濡らして床に垂れた。
「大丈夫だ、すぐなじむからよ」
男は笑いながら言い、空になった瓶を床に置くと両の手の平を珂月の肌に滑らせた。
ぬるぬるした液体を体に塗りこめられ、珂月は冷たさと嫌悪に震えた。
男の手はゆっくりと円を描くように珂月の腹部をなで、じょじょに上へあがっていき、胸の突起に触れた。
珂月が息を飲んで身をよじろうとすると、背後の男に両肩をつかまれて身動きが取れなくなった。
斎珪は立ったまま、顎に手を当てて珂月をじっと観察している。
男は珂月の胸を重点的に濡らしていった。
焦らすように突起の周りをくるりとなで、平たい胸をもんで親指の腹で飾りを弾く。
珂月はなぜか体がほてってくるのを感じた。
このままではまずい。
「ちょっと……これが洗礼だっていうんですか? よそから来た者にいつもこんな真似してるんですか?」
「まさかあ」
男は馬鹿にしたように背後の男と目を見交わす。
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