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サビイロ契約

102

「あんたのバイラが根こそぎいなくなるのをこいつらが見咎めてさ。
これはなにかあったに違いない助けにいかなくちゃ! って言って、俺の言うことなんか聞きやしねえの。
なんとかしてくれ。あんたの命令じゃないと嫌みたいだ」

 アスタルトが言うと、ダラザレオスたちは強く頷いた。
 ルザはこわばっていた表情を緩めた。

「そうか……じゃあ働いてもらうか」
「はい!」

 待ってましたとばかりにダラザレオスたちは嬉色を浮かべた。
 ルザは止血をしてくれた部下に支えられて立ち上がった。

 アスタルトらが連れてきたバイラが暴れまわって人間たちを撹乱している。
 ルザはざっと状況を確認して言った。

「好きに暴れろ。ただし攻撃してこない奴は傷つけるな。俺の匂いをつけてる細っこいのは見つけて俺のところに連れてこい」

 ルザが言い終わると同時に銃弾の嵐がやってきて、ダラザレオスはほうぼうに散っていった。
 ルザが走ると弾幕も追いかけてくる。
 ルザはなんとか民家の影に避難し、壊れた二階部分から様子をうかがった。
 アスタルトも追ってやってきて、ルザの隣から広場を見下ろした。

「うへえ、すごい銃の数だな。ここは銃器のない国って聞いてたんだけど」
「持ってる奴は持ってるんだよ。とりあえずあれをなんとかしねえと」

 ルザは一台の車の天井に設置された機関銃を睨んだ。
 一人の男が機関銃を操ってルザを狙っている。
 機関銃手はすべて殺したはずだったが、まだ扱える者がいたようだ。

「アスタルト、あのでかい銃撃ってる奴をやってこい」
「らじゃっ」

 アスタルトはひらりと二階から飛び降りて姿を消した。
 ルザもすぐに行動を開始した。

 アスタルトは広場の裏手を走った。
 ここなら機関銃の射程外だ。
 ダラザレオスともみ合う人間たちの後ろをすり抜け、撃ってきた一人にバイラをけしかけて食い殺させて突き進む。
 車の裏側に出るとあちこちから銃撃がやってきたが、ダラザレオスの脚力の前では拳銃の弾などそうそう当たるものではない。

 機関銃手は空からやってくるバイラをこれでもかと撃ちまくっていて、背後ががら空きだった。
 アスタルトが走っていくのを見つけた男が警告したが、弾幕にかき消されて届かなかった。
 アスタルトは車の上に飛び乗ると機関銃を操る男の後頭部をつかみ、機関部に思いきりぶつけた。
 男は眉間から血を流して痙攣しながら崩れ落ちた。

「よしっ」

 アスタルトは男の首根っこをつかんで車の外に放り投げた。
 しかし、肝心の機関銃は誰も触っていないのに弾を撃ち続けている。
 止め方など知らないアスタルトはとりあえずグリップを握って銃口を移動させた。

 アスタルトのわずかな手の動きで、人間たちはあっという間に撃ち抜かれて倒れていく。
 アスタルトは面白くなって機関銃を撃ち続けた。

 アスタルトが機関銃を押さえたのを見たルザは、広場の真ん中を走り抜けようとした。
 しかし爪先を弾幕がかすめ、ぎょっとして飛びのいた。
 一歩前に出ていれば撃たれていた。
 ルザは機関銃を振りかざしているアスタルトを睨んだ。

「てめえ! そこまでやれとは言ってねえぞ!」

 しかしアスタルトは嬉しそうに銃をぶっ放していて上の空だ。
 アスタルトは昔から面白い玩具を見つけるとそれっきりになってしまう。
 ルザは仕方なくアスタルトを放って珂月を探した。

 ダラザレオスの登場に、五十井の統率力はすっかり失われているようだった。
 男たちは逃げまどってちりぢりになっていた。
 拳銃で応戦しようにも相手が多すぎる。
 一体のバイラを仕留める前にほかのバイラがやってきて、たちまち食われてしまう。

 ちらほらと逃げ出す者も現れ始めた。
 ルザの命令通り、ダラザレオスたちは逃げていく者にはなにもしない。
 ルザはほうほうの体で逃げていく一人の男の背中をみつめ、鼻で笑った。

「せいぜい生き延びて、俺や珂月に手を出すとどうなるのか広めてこいよ」

 完全に形勢が逆転し、バイラたちの独壇場と化していた。
 人々は食われる前にと逃げ出していく。
 その中でまだしぶとく抵抗している一団を見つけ、ルザは足音を忍ばせて近づいた。
 彼らはバイラの死骸を塹壕がわりに、残り少ない弾数で応戦している。

 ルザは逆側から同じ一団に目をつけた部下と目配せして、彼らの背後に忍び寄った。
 十分近づいたところで、ルザは崩れた建物の影から部下に行けと合図した。
 部下のダラザレオスはその場で五メートルはある巨大なクモのバイラを呼び出した。
 彼らはすぐそばにいきなり現れたバイラに仰天して飛び出してきた。
 逃げ遅れた一人はクモの長い前足に体を貫かれて事切れた。

 飛び出してきた中に五十井の姿を見つけ、ルザも影から姿を現した。
 五十井はルザを見ると派手に顔をしかめて拳銃をルザに向けた。
 五十井を守っていた男たちは大型のバイラに気を取られている。
 ルザはなんとか五十井に近づこうとするが、五十井の射撃の腕がなかなかのものだと知っていたので慎重にならざるを得ない。

 五十井はおもむろに銃を持つ手を下げた。

「おい、取引といこうじゃないか!」

 五十井は周囲の喧騒に負けじと叫んだ。
 ルザは目を細めただけで答えない。
 五十井はせっぱつまったせいかいやに大仰な仕草で両腕を広げた。


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あきゅろす。
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