9 「止まれ! エリエイザー!」 男はシュトをつかんだまま後ろを向いた。 道の奥から、金髪の男が抜き身の長剣をたずさえマントをひるがえして走ってくる。 遠くからでも危機迫った表情をしているのがわかる。 「動くな金光の騎士! 遅かったな、散歩してたのか?」 エリエイザーがシュトの首にこれ見よがしに短剣を突きつけると、金髪の男は土煙を上げて立ち止まった。 眉をつりあげ、忌々しそうに舌打ちする。 「貴様、どこまで罪を重ねれば気がすむんだ」 「うるせえ、頭固いんだよお前ら。仲良くしようぜ?」 「その子を離せ」 金髪の男は離れた場所からシュトを指差す。 シュトはよく回らない頭でふたりのやりとりを聞いた。 「エリエイザー、どこまで行こうと結果は同じだぞ」 「そうかな」 エリエイザーはさっと短剣を鞘におさめた。 それを見逃さなかった金髪の男が全速力で距離を縮めにかかる。 シュトはすぐそばでエリエイザーが鼻で笑うのを聞いた。 その直後、体が浮いた。 「うえええ!?」 「きっちり受け止めろよっ」 エリエイザーはシュトを軽々と持ち上げ、荷物のように金髪の男めがけて投げつけた。 金髪の男は目を見張ったものの、シュトをうまく抱きとめた。 だがかなり高く放られたので、衝撃でシュトもろとも地面に倒れこんだ。 「い、てて……」 シュトが目を開けると、どうやら金髪の男の胸の上に乗っかっているらしかった。 苦しそうなうめき声が聞こえてくる。 顔を上げると男は頭に手を当て、半眼でシュトを見ていた。 「あっ、すっすまん!」 下敷きになってくれたのに、いつまでも乗っているわけにはいかない。 シュトが横にずれると、金髪の男は手をついてよろよろと立ち上がった。 シュトを受け止める際に落とした剣を拾い、あたりを見回す。 だがどこにもエリエイザーの姿はない。 金髪の男はいらいらと髪をかきむしった。 そのたびに金糸が日の光にきらきらと乱反射する。 「少しここで待っていろ」 シュトがこくんとうなずくと、彼は胸を押さえてどこにいるかもしれないエリエイザーを追っていった。 ←**#→ [戻る] |