85 それは王宮の一画、半地下のところにあった。 全面石造りで、季節を通して冷たい小さな部屋だ。 窓はない。なぜなら必要がないからだ。 そこは軍規を違反した者の中でも特に重罪の者が収容される、懲罰房だった。 廊下を闊歩する靴の音が、高く響く。 誰かが近づいてくる。 錠を外す重々しい音がして、小部屋に明かりが差しこんだ。 暗闇に慣れた彼の目には、燭台の明かりでさえ強烈だった。 「閣下、陛下がお呼びです。おいで願えますか」 しばらく目頭をもんでから、彼は半眼で兵士をにらみつけた。 「俺を? そんな馬鹿な」 「いえ、確かにライール様にと仰せつかりました」 「意味がわからない」 ライールは自嘲気味に笑うと寝台に横になった。 兵士は部屋に入れないまま、行き場のない手を宙にさまよわせた。 「閣下、どうか一緒に来てください。私が怒られてしまいます」 「知ったことか。ここでしばらく頭を冷やせと言われたのだから、俺はここにいる」 ライールは頭の後ろで手を組み目を閉じた。 「閣下……」 兵士の困惑した声は冷え冷えとした房内に吸いこまれた。 不意に別の足音が近づいてきた。 兵士は目を凝らして足音の主を確認すると、慌てて深くお辞儀をし一歩下がった。 足音はライールの房の前で止まった。 「こんなことだろうと思ったぞ」 ライールは苦い顔でゆっくり起き上がった。 「なにゆえ宰相閣下がこのようなところに」 「君を迎えに来たのだ。金光の騎士」 「まだその名でお呼びくださるのですか」 キルビーは腕組みをしてライールを見下ろした。 どことなく嫌悪感がにじみ出た表情だ。 「名を返上したくないのであれば、私と来たまえ。陛下をお待たせするわけにはいかん」 ライールは寝台に座ったまま少し考えこんだが、重い腰を上げて房を出た。 キルビーはライールを一瞥すると先に立ってきびきびと歩いていった。 キルビーが向かったのは王宮の奥にある王の執務室だった。 そこにはケセド王が文机に座っているきりで、副官や衛兵の姿はなかった。 人払いがしてあるようだ。 #→ [戻る] |