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少年は泡沫の夢を見る

73

「ずっとこのままだったらどうしよう……」

 シュトはひざに顔をうずめて呟いた。
 冷たい夜風がたき火をゆらし、ライール、グレック、ハズの困惑の表情に陰影を落としている。

 シュトがはっと気がついたとき、たき火のそばに座っているのはライールだけだった。
 ひざを抱えた状態のまま寝入ってしまっていたようだ。
 グレックは毛布にくるまり、ハズは王鷲の翼に身を寄せて眠っている。
 青年は縛られたまま横たわって寝息を立てている。
 シュトが背筋を伸ばすと、いつの間にかかけられていた毛布が肩からすべり落ちた。

「まだ夜半過ぎだ、寝ていろ」
「うん……」

 シュトはぼんやりする目をこすった。
 ライールは立ち上がってシュトの後ろに落ちた毛布を拾い、元のように背中にかけた。
 シュトはされるがままでいたが、首筋に冷たいものが触れて視線を落とした。
 首に銀の鎖がかけられている。
 鎖の先には、繊細な縁取りの施された七色に光る宝石がついていた。

「え、なにこれ」
「お守り。俺の家に伝わる品だ」

 シュトは石をつまんで様々な角度からたき火に照らしてみた。
 表面に薄く、前足を上げていななく馬と総状の花が彫られている。
 テンペスト家の家紋だろう。

「綺麗だな。でもこんなのおれには似合わないよ」
「似合ってる」

 すぐ脇に座ったライールは、首飾りをつけたシュトを満足そうに見つめた。

「いいのかよ、簡単にあげちゃって」
「外そうとしても無駄だからな。それはつけた本人でないと外せない」
「へっ?」

 シュトは首飾りの留め具を外そうとしてみたが、どんなにがんばっても外れなかった。

「えええっなんだよこれ、呪いの首飾りじゃねえか!」
「お守りだと言っただろう。それがいつでもお前を守ってくれる」
「本当かよ」
「お前は首輪をつけておかないと、すぐどこかへ行ってしまいそうだからな」
「それが本音か」

 ライールは愛しげにシュトの髪を手で梳いた。
 シュトは常に余裕たっぷりの彼が狼狽する様を見たことがない。
 むしろ狼狽するライールなんて想像もつかなかった。
 どんなことをすれば彼は驚いてくれるのだろうか。



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