51 王鷲は目立つので、そうそう人のいる場所に降り立つことはできない。 町中に着地しようものなら軽い恐慌が起きてしまうだろう。 一行は野宿をくり返してまっすぐ目的地へ向かった。 向かうはエゼンウェルドの知り合いだという道士の家だ。 ムントヴァという小さな町の奥にある山間に、彼はひとりでひっそりと暮らしている。 一人前の道士なのに弟子もとらず、人と距離を置いて生活しているらしい。 シュトはなんとなくその道士のひととなりが想像できた。 なにしろあのエゼンウェルドと知り合いなのだ。 一癖も二癖もある人物に違いない。 人の手が一切入っていない自然そのものの山の中に、その家はあった。 一人暮らしにしては大きい長方形の屋敷だったが、壁じゅうがつたで覆われているせいで、ハズが気づかなければ見逃していただろう。 庭に着地して王鷲から降りると、勢いよく玄関の扉が開かれた。 両開きの扉は壁に当たってはね返った。 そこに仁王立ちしていたのはひとりの年齢不詳な男だった。 「おい! なんだお前たちは! どこの者だ!」 どうやら寝起きのようで、男の声は少しかすれていた。 シュトは道士にいい思い出がないので、ライールの後ろからそっと状況をうかがった。 男は濃い茶髪を風に遊ばせ、長い足を大股に突然の訪問者をうさんくさそうに見ている。 無精ひげがなければ女性にもてそうな雰囲気はあった。 ハズはひるまずに男に近づき、懐から一通の手紙を取り出した。 「初めまして、道士トルイ。僕はエゼンウェルド様の使いのハズ。手紙を預かってきました」 「なに? パシンロウカリンガツトラの?」 トルイは眠そうにまばたきしながら手紙を受け取った。 乱暴に封を破り一気に読み終えると、ライールとグレックに視線をすべらせる。 そして最後にシュトを目にとめ、ほんの少し口はしを上げた。 「なるほど、よくわかった。お前らが用事を済ませるあいだ、ここに置いてやろう」 あまりにあっさりとした返事に、シュトはぽかんと口を開けた。 妙に物わかりのいい男だ。 ←**#→ [戻る] |