少年は泡沫の夢を見る
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ライ―ルとグレックは交代で城を見張り、なんとか侵入できないか策を練ったが、小国とはいえ王城に誰にも気づかれず忍びこむのは不可能だ。
そこでふたりは仕方なく正面から乗りこむことにした。
初めは門前払いだったが、大エスス王の名をちらつかせればあっさり中に入れてくれた。
エゼンウェルドに挑むのは口の達者なライールで、グレックはなにかあったときのため門の外に隠れて待機していた。
「それで無事に成功したわけだ」
「ああ。眠っているお前を見たときのグレックのあの顔、見せてやりたかったな。あれはひどかった」
シュトは腹部にまわされたライールの腕に少し力が入ったのを感じた。
シュトは顔がゆるむのを押さえられなかった。
ふたりは一生懸命に自分を取り戻そうとしてくれていた。
それを思うだけで心が満たされた。
城で身動きのとれない苦しい生活をしていたことも、すっかり過去の出来事になった。
どうやらアディーハに惑わされてからの記憶は、ふたりともなくしているようだった。
シュトは聞かれてもなにも答えなかった。
元に戻れたのだから、それで問題はない。
「ありがとな」
「え?」
「なんでもない!」
シュトの小さな呟きは、風のうなりに負けてライールに届くことはなかった。
四人が向かっているのは大エスス国だが、王宮のある都ではなく旧イサドア国の地区だった。
夜に休んでいるときにシュトがなぜかと問えば、ハズから意外な答えが返ってきた。
「エリエイザーがそこにいるから」
「え!? どうしてそんなこと知ってるんだよ」
「エゼンウェルド様がお調べになった」
「それでイサドアにいるって? でも国から逃げ出した奴がなんでまた国に戻ってるんだよ」
それにはハズは何も言わず、代わりにグレックが答えた。
「まあなんだかんだいって頼りになる奴がいるのは自分の国だろうからな。盲点っちゃ盲点だったよ。あんな遠くで見つかっといて、また戻ってくるとは誰も思わねえよ。なあ?」
グレックはライールに同意を求めたが、ライールはじっとたき火を見つめている。
シュトが首をかしげていると、グレックは笑みを張りつけたままライールの隣に移動して、肩に腕をまわした。
「おい! しっかりしろよ相棒」
「……え?」
「お前がしっかりしててくれないと困るんだよ。仕事だぞこれは」
ライールに元気がないのを一番に察知できるのは、長年のつき合いであるグレックのようだ。
「ライール、お前は英雄だ。大エススはお前のおかげで戦争に勝てたんだ。忘れるな」
「……忘れてなど、いないさ」
シュトはこんな辛そうに笑うライールを初めて見た。
英雄であることが重荷なのだろうか。
だがグレックもまた、どこか笑顔に違和感があった。
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