49 薬の効果でうつらうつらしていたシュトが目を覚ましたとき、そこは空の上だった。 ぎょっとして下を見ようとしたが、腹にまわった腕にがっちり押さえられて動けなかった。 「落ちるぞ」 「ライール!? えっ、なにこれ、おれたちどうなってんの!?」 シュトとライールは茶色まだらの羽毛の上にまたがっていた。 広い背中に力強く羽ばたく両翼と、立派な尾羽を持つ巨大な鳥の上に。 「王鷲だ。鳥類で一番大きくて賢いが気性が荒い。これを手懐けられるのは道士だけだ」 「それが、なんで?」 「あの王子様が貸してくれたんだよ。御者つきでな」 よく見ると両脇にもう二羽、王鷲が並行して飛んでいる。 右の王鷲にはグレックがなにか食べながら乗っていて、左の一羽にはどこかで見たことのある黒髪の少年が乗っていた。 「もしかして、ハズ?」 「そういう名だったかな」 「あいつ、道士だったのか」 「正式な道士ではないらしい。ずいぶん無口な奴で自分のことを話したがらないが、動物の扱いに関してはかなり上級者みたいだ。素質があったんだろうな」 「へえ」 シュトは感心してハズに視線を送ったが、彼がこちらを向くことはなかった。 長い前髪が風にあおられて顔があらわになっている。 シュトほどではないが色白で、穏やかそうな大きな目をしていた。 突風が吹いたらたちまち飛ばされそうだが、エゼンウェルドの小間使いをしているときより生き生きとして見える。 シュトは久方ぶりににっこりした。 「エゼンウェルドもいいとこあるなあ」 「そうでもない」 すぐうしろでライールのこわばった声がした。 シュトは首だけ動かしてライールと目を合わせた。 「なんで?」 「あいつは監視役だ。俺たちと、主にお前のな。手まわしのいい奴だよ」 シュトはライールからかいつまんで今までの話を聞いた。 森で意識を失ったライールは気がついたら城の地下にいて、暴れないよう縛りつけられていた。 そして薬師らしき人物になにやら薬をかがされ、意識がはっきりしたと思えば一方的な説明と口止めをされた。 そのあとすぐグレックとともに城から追い出された。 ふたりはひとまず城下町の宿に落ち着き、自分たちを助けるためひとり城に残ったシュトの奪還作戦を考え始めた。 #→ [戻る] |