36 「よし、ではこちらへ来い」 エゼンウェルドは立ち上がってシュトを手招きした。 部屋を横切り棚の上に乗った瓶を手に取ると、栓を抜いて中身を大ぶりな銀のゴブレットに注いでいく。 ゴブレットは透き通った赤い液体でなみなみと満たされた。 匂いからして甘い酒のようだ。 シュトは困惑しながらもエゼンウェルドのそばに立った。 エゼンウェルドはゆっくりゴブレットに両手を浸した。 そしてあふれんばかりにすくった酒をシュトの頭にかけた。 「うわあ!?」 目や耳にまで酒が入りあわてて拭おうとしたが、エゼンウェルドはシュトの両肩をつかんで押さえた。 「なんだよこれっ、目が、目があっ」 「汝、我と義兄弟の契りと交わすことを望むか」 「ええ?」 「肯定しろ」 「ああ……わかったよっ」 シュトがまばたきを繰り返しながら思いきり顔をしかめて言うと、エゼンウェルドは浅くうなずいた。 「よし、では次はお前だ。同じようにやれ」 シュトはいらいらしながらゴブレットに両手を突っこもうとした。 だがその手は乱暴にさえぎられた。 「片手でいい。数滴、私の頭にこぼせ」 「数滴でいいのか!? おれはびしょびしょにしておいてなんだそれ!」 「うるさい、早くしろ」 シュトは憤まんやる方なかったが、右手を酒につけて少しかがんだエゼンウェルドの黒髪に雫を落とした。 「お前、おれと義兄弟になりたいか」 「ああ。――ここに契りは交わされた。私とお前はこれより兄弟だ」 ←**#→ [戻る] |