28 「おい、ひとりでいい格好するな。お前っていっつもそうだよなー」 むくれたグレックも追いついてきた。 「あんたも来てくれるのか?」 「おうよ。なんか面白そうだしな」 グレックはいたずらっぽく笑って見せた。 日の光がよく似合う屈託のない笑みだ。 シュトは背中がもぞもぞして視線をさまよわせた。 そして小さい声で言った。 「……ありがとう」 三人のあいだを温かな風が吹き抜けていった。 「だ、だぢいりきんす?」 「立ち入り禁止。読めないのか」 「だって魔族の字とだいぶ違うもん。こんな乱雑に崩されていたらわからないよ」 シュトは森の入り口に掲げられた看板を見てそうこぼした。 町はずれから森の中に歩いていく三人を、見かけた町の人々が影からこわごわ見送っている。 止めるべきか迷っているのだろう。 だがあまりにもその歩みがよどみないので、誰も話しかけてこなかった。 うっそうとしたその森は巨大な木々のせいで日差しがさえぎられ、昼間だというのにかなり薄暗かった。 地面はたっぷりと葉が降り積もっていて柔らかい。 虫が耳元で騒ぎ、遠くでは獣の鳴き声がする。 きらきら光る深緑の天井に乱立する巨大な柱、発酵する匂いを出す茶色のじゅうたん。 雄大な迷宮に入りこんだ三人と二頭は、とても小さな存在だった。 行けども行けども風景は変わらなかった。 先頭を行くグレックが木につけている印がなければ、まず帰って来られないだろう。 町を出たのが昼過ぎだったのでそのうち日が暮れ、適当な場所で夜を明かすことにした。 「なんにもないじゃねえか、どうやったら帰って来られなくなっちまうんだ?」 グレックはたき火で乾燥肉をあぶりながら言った。 「まだ先があるんだろう」 ライールが言った。 まだここは森の入り口にすぎない。 さらに奥に秘密が眠っているのかもしれない。 ←**#→ [戻る] |