27 食堂を出たシュトは、こぶしを握りしめてふたりの騎士を見上げた。 「おれ、あの森に行ってくる」 「はあ!?」 グレックが口をあんぐり開けた。 「馬鹿お前、今の話とエリエイザーは関係ないだろ? エリエイザーが国にいたころから住人の失踪は始まってるんだから。それより王子様の情報を探しに行かないと」 「魔族にぬれ衣着せられたままってのが腹立つんだよ! 絶対魔族は関係ないよ。おれそんなの聞いたことないもん」 「でも危険だぞ」 ライールが真摯な口調で言った。 だがシュトもゆずらない。 「人間がだめでもおれなら平気かもしれない」 「お前が行ってもなんにもならないだろ。俺たちがここに来たのは寄り道するためじゃないぞ」 「ライールとグレックは情報収集してなよ。おれひとりで行ってくるから」 「気が狂ってもいいのか?」 「嫌われ続けるよりましだよ!」 シュトは感情に任せて叫んだ。 視界が少しうるんだので何度かまばたきをしてごまかす。 城で大事に大事に育てられたシュトは、人間がこれほど魔族に不信感を抱いているなんて知らなかった。 教師は教えてくれなかったし、自分から知ろうともしなかった。 ときどき辛そうな目をしていたダンタリオはもしかしたら、誤解から生まれた衝突に頭を悩ませていたのかもしれない。 「だっておかしいじゃないか、こんなの。おれはなにも悪いことしてないのに」 シュトはうつむいて服をつかみしわを作った。 ふたりはなにも言わない。 シュトは少し心配になったが、怖くて顔を上げることができない。 そのうちライールが腕組みをして深く息をついた。 「わかった」 シュトはその淡々とした声色に体をびくりと震わせる。 「行くぞ」 「え?」 勢いよく顔を上げると、ライールは馬の手綱を引いて歩き始めていた。 シュトは小走りにそのあとを追った。 「行くってどこへ?」 「森」 「ついてきてくれるのか?」 「ああ」 並んで見上げた横顔はしれっとしていた。 ←**#→ [戻る] |