少年は泡沫の夢を見る
25
道のぐるりは鮮やかな緑の畑が広がっていて、とてものどかだ。
グレックの不穏な空気をまとった声はおよそ不似合いだった。
「あそこのいかれた王子様が変なものを飼っているらしい。夜な夜などこかへ出かけて行ってその変なものの世話をしてるんだとか」
「それがエリエイザーだと?」
「変なものって言えばそうだろ。あいつならいかれた王子様とも気が合いそうだし」
どこにも確証はない話だが、手がかりがない以上とりあえず行ってみるほかないだろう。
ちょうどパシンロウカリンガツトラは今いる場所からそう離れていない。
そうして三人の目的地は決まった。
やたら長ったらしい名前のその国は、遠目に町を見てすぐわかるほど今までの国とは違っていた。
真四角ののっぺりとした家が小石のようにごろごろし、その周りをいくつもの天幕が囲っている。
空っ風が似合う味気ない町だ。
外壁はなく、そのかわりなのか森が奥に生い茂っている。
今にも町を飲みこみそうな深く暗い森だ。
「あの森の向こうにたしか王城があるはずだ」
ライールが言った。
「ひとまずあの町で話を聞こう」
その町の住人は大きな布を体に巻きつけているような奇妙な服装をしていた。
たくさんある天幕は移動商人の店らしく、町の外はにぎわっているが中は静かだ。
三人は静かな町を散策し大衆食堂に入った。
「おう、いいにおい」
グレックが鼻をひくつかせた。
グレックは体格に見合った大食いだ。
ふたりとも国王の命を承ったとき同じ額の資金をもらったはずなのに、グレックの持ち金はライールのそれよりだいぶ減っている。
食堂はがらんとしていて、常連らしい数人の客がひとかたまりになって早口に話しこんでいるだけだった。
三人はシュトを真ん中にしてカウンターに座った。
店主はふくよかな中年の女性だった。
くすんだ色の波打つ髪を豪快にひとつに束ね、まくったそでからは料理で鍛えられたたくましい腕がのぞいている。
「いらっしゃい! なんにする?」
グレックは品書きを見ながら次々に注文していく。
それぞれの前に湯気を上げる料理が運ばれてくると、シュトは顔をほころばせた。
「えへへ。久しぶりの温かい食事だ」
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