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少年は泡沫の夢を見る

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「ライール、おれたち、もう前のようには戻れないのか……?」
「後ろを見てばかりではだめだよ、シュト。起きてしまったことは変えられないんだ」
「おれはあんたにとってはもう、ただの邪魔な敵なのか?」

 一瞬、シュトはライールが泣きだしそうに見えた。
 だがまばたきをするあいだに、彼は大エススの騎士の顔に戻っていた。

 ライールがなにか言いかけたとき、風を切って王鷲の小隊がふたりを囲むように現れた。

「閣下!」

 大エススの援軍だった。
 王鷲に乗った道士たちは、ライールを背にかばうように陣形を組んでシュトに剣を向けた。

「魔族め、覚悟!」
「やめろ! 手を出すな!」

 ライールは怒鳴りながら味方の前に飛びだした。

 遅れてやってきた一羽の背から、間延びした声が聞こえてきた。

「あらら、これは感動的な」

 シュトが見上げた先には、笑いながら高度を下げてくるトルイの姿があった。
 地面と平行に腕を伸ばして仲間を牽制しているライールの隣に王鷲をつけ、トルイはシュトに手を振った。

「久しぶり、魔王の弟くん」
「あんたも来たのか」
「一応大エススの道士だからね。招集されちまったよ。残念ながら」
「お前は黙ってろ」

 ライールににらまれ、トルイはわざとらしく頭を下げた。

「すいません閣下。でもあんたも辛いでしょ。愛し合いながらも敵同士なんて、悲劇の定番じゃないですか」
「黙ってろと言ったのが聞こえないのか!」

 ライールの剣幕にさしものトルイも口をつぐんだ。
 トルイの言葉を聞いてしまった道士たちは、驚きもあらわにライールを見つめている。
 ライールは金糸の髪に手を突っこみ沈黙した。
 しかしすぐに顔を上げ、再びタラニュスを抜くと青白い刀身をシュトに向けた。

「……そいつを、こ」
「はい、そこまで」

 真上から声が割りこんできた。
 王鷲が数羽、シュトを囲む王鷲をさらに囲むように舞い降りてくる。
 ライールとシュトには見覚えのある格好の男たちが背に乗っていた。
 エゼンウェルドの部下たちだ。



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