102 パシンロウカリンガツトラとの同盟条約を締結した直後、ヴェルニアスは戦場となった。 大エススが大軍を率いてヴェルニアスの国境を越えたのだ。 前々から予想していたダンタリオは手際よく派兵した。 魔族の軍は獰猛な魔物が半数をしめており、倒れるまで止まらない。 だがその勢いも、人間たちの圧倒的な兵力に押されつつあった。 魔族への積年の恨みを糧に、大エススは猛進している。 「報告いたします! クシフィノリスが落ちました! ダグナフォン閣下の隊はザンロフまで後退しております」 次々に持ちこまれる戦況報告はどれも芳しいものではなかった。 ケセド王は予想をはるかに上回る道士を擁しており、魔物たちを一掃していく。 ヴァラディン城の王の間は、現在軍の総司令室となっていた。 玉座を先頭に椅子が二列向き合って並び、武官たちが苦い顔を並べて報告を聞いている。 昼も夜も関係なくひっきりなしにやってくる伝令に、彼らは休むひまもなかった。 巨大な国旗を背に座るダンタリオの隣にはエゼンウェルドが座っている。 孤高の存在である魔王と同格に扱われる者は今までいなかった。 人間の王がダンタリオと椅子を並べることに難色を示す者もいたが、ダンタリオが認めている手前なにも言えはしなかった。 シュトは少し離れたところでヘルヴィスとともに戦況を見守っている。 「このまま行っても各個撃破されるだけだ」 ダンタリオが言った。 「全軍をヴァラディンに集結させろ」 「陛下、まだ余力は残っております。御身を危険にさらすことはありません」 「これ以上は無意味な犠牲が出るだけだ。この城は難攻不落だぞ」 「ここで、決着をつけられるのですか」 「ああ。ここまで攻めこんできた人間が日の目を見ることはありえない。魔族のただなかに飛びこむのがどれだけ愚かしいことか、じっくりと教えてやろうではないか」 「はい!」 武官たちは一斉に立ち上がり敬礼した。 「魔王陛下に勝利を!」 見事にそろった声は広間を振動させ、見えない魔力のうねりが混ざり合って高まっていく。 シュトは心配そうに見つめてくるヘルヴィスの横で、黙ってダンタリオを見つめていた。 #→ [戻る] |