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【春宵想歌】


「今週末には桜が満開みたいだよ。見に行かない?」



 そんな誘いをハレルヤにかけたのは三月最後の週末前の夜だった。



『桜かぁ』



 ハレルヤはポツリと呟くと、渋々そうだったけど賛成してくれた。



 ここ最近はずっとトレミーの中で地上に下りる機会もない程に慌ただしかった。ハレルヤと共に地上に下りたのは二ヶ月も前になる。



『しかしなんで桜なんだ』



「キレイだからだよ」



 僕は端末機の画面に拾った桜の画像を出す。



「こうやって桜が一列に並んでるのを桜並木って言うらしいよ」



『桜を並べて意味あんのか?』



「意味は分からないけど、ほら夜の並木とか凄くキレイだろ?」



 僕は夜空に浮かぶ桜の写真を指差し、その美しさに心が安らぐのを感じた。



「夜桜……見たいなぁ」



 零れた願いにハレルヤは呆れたように笑い、だけど優しい声を頭の中で響かせた。





『だったら夜桜、見に行くぞ』







 週末の夜、僕は地上に下りた。端末でいくつもの桜を調べ、辿り着いたのは小さな島国。



「ここは桜がたくさんある国なんだよ」



 見知らぬ土地なのに、僕に不安なんてカケラも無くて、ただあの美しい桜が見れる喜びに胸が高鳴っていた。



 途中、擦れ違う人に桜並木がないかを尋ねて、教えて貰った場所に向けて足早になる僕をハレルヤは笑った。



『今日は珍しく積極的だな』



「そりゃ初めて見る桜だからね」



 そう言ってるうち、僕の視界に白く浮き上がる並木が映った。



「ハレルヤ、もしかしてあそこじゃない?」



 足は自然と走り出していて、白い並木を目指す。そして川の流れに沿うように延びる遊歩道の入り口に着いた途端、僕たちの視界は淡いピンクに包まれた。



 すぐ側は車が頻繁に通る現実で、一歩並木に入れば、そこは幻想的な桜小路。遊歩道に設置された街頭は仄かにオレンジがかっていて、桜の淡い色を美しく浮かび上がらせいた。



「凄い………」



『なんだよ……これ』



 僕たちは初めて見る桜並木に引き込まれように歩き出す。



 一列に並び、咲き誇る桜は夜の暗闇の中で光りを放っているようだった。



「こんなにもキレイな景色があるんだね」



『………アレルヤ』



 不意に呼ばれ僕が足を止めた瞬間、風が吹いてピンクの枝が一斉に揺れた。そして舞い上がった花びらがふわふわと僕たちへと降り注ぐ。





『この景色、目に焼き付けておけよ―――』





 ハレルヤの言葉に隠れた意味を感じて、僕は強く頷いた。



「分かってるよ、ハレルヤ」



 想いは花びらのように、互いの心に降り注いでは溶けて染み込む春の雪だ。

 春の夜、美しく咲いた桜が奏でる願いは、例え散ってもまた花を咲かせる強さを持つ。



 だけど人の命は散ってしまえば、もう咲くことはない。



 だからこそ今を生きて、未来を描く。

 時に立ち止まり、迷い泣きながらでも精一杯生きている。



「もう二度見れなくても」



『忘れなきゃいい』



 誰かがまたこの桜を見上げてくれるように、僕たちが守るんだ。



 この世界を美しいと思える日が訪れるには、まだ迷いの連続だろう。それは迷い込んだ小路のように簡単には抜け出せない。



 だけど、未来は訪れる。



 桜小路―――君と描いた最期の願いは、必ず幸せな未来に咲かせてみせる。





              END



          09.3.30 相奈由維








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ああ、もうほんと二人の会話がせつなくて...でもそこがたまらなく好きです..!!!
「もう二度見れなくても」..う゛う゛っ( ノノ)
『忘れなきゃいい』..ぶわっ( ノДi)

相奈さんの小説はいつも景色がすごい綺麗で感動します。見えないけど、見えるような気がします。頭の中が桜でいっぱいです(*^^*)

相奈さん、素敵な小説をどうもありがとうございました!!


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