ぷよ7ネタまつり
まぐろ×シェゾ
綺麗に並べられたそれは偽物のようだった。見慣れたそれとは全く違う。綺麗すぎて違和感、手にとっていいのかわからない。まるで硝子細工。

戸惑うシェゾに、しかし目の前の彼は邪気のない笑顔を浮かべながら手を伸ばす。
俄には信じられない。だが、信じるしかないのだろう。目の前の全く普通の少年が言うのだから。

そう、まさか、まさかだ。

「お兄さん食べないならぼく食べちゃうよ?お刺身」

……まさか生き物を生で食べるなんて!!







不覚にもまたもや空腹でふらふらしていたところを見知った少年に拾ってもらった。それはいい。

たまたまその少年、まぐろの家が魚屋だというので飯をごちそうになることになった。それもいい。

そこで、出てきたのが、これだった。

「……生魚…だと…?!」
「刺身だよ?食べたことないの?」

魚を生で食べられないことはないのは知っている。
だが、焼く能力があれば焼くだろう、普通。それがなんだ、ご丁寧に切り下ろされてまるで初めから生で食べることを前提としているかのような出て来かたである。

最初から生で食べるハラだなんて、そんなことするのはシェゾの頭の中には、焼く知恵のない低級魔族しかいなかった。

だがその魔族と決定的に違うのは、綺麗に並び立てられていることで。たしかにこれだけ細かく切られていれば生魚である感覚は薄れると思うがしかし。

「おにいさん?」

シェゾは黙り込んだままひたすら目の前のそれを睨みつけて葛藤していた。訝しんだまぐろが声をかけても刺身を睨んだまま反応しない。

………180年、だ。
人として180年。

今まで180年、散々酷いものを食べてきた。生きるために。
金が無ければ草も食った。罠にはまれば魔物も喰った。

だが決して、生では喰わなかった。

生で喰うのは野獣だけだ、この身は闇に堕ちようとも人間としての尊厳までは棄てるつもりはない。だから生肉だけは喰わないと誓っていた、の、だが。

(此処に来て究極の選択を迫られているのは何故だ!!)

何故こんな状況になっているのかわからない。ついでにいうならもう一つわけのわからないものがある。

そう、……この目の前に並べられた2本の木の棒は何だ。
これをどうしろと言うのだ。

シェゾは恐る恐るそれに手を伸ばす。片方が細くなっている。刺せ、と、言うことだろうか。なら何故2本なのだ。両手か?

するとまぐろが思いついたように手を叩いた。

「あ、ひょっとしてお兄さん外人さんだから箸の使い方わからない?」
「…橋?」
「お箸、こうやって挟むんだよ」

言うとまぐろが器用にその2本の棒を片手で指の間に絡めるように持ち、2本の棒の間に生魚を挟んで持ち上げる。
ぼんやりそれを見上げるとシェゾは素直に口を開いた。

「……おま…器用だな」
「普通だよ」

見ながら警戒するように刺身を睨むシェゾにまぐろは笑う。目の前でひらひらさせてから醤油につけて食べる。
一連の動作を見送っている様がなんだか猫みたいだなぁと思いながらまぐろは席を立った。

「何処へ?」
「フォーク取ってきてあげる」

そういって出て行った背中を見送りながら、ようやく出てきた聞き慣れた言葉に一瞬気を緩ませる。
しかし、フォークという文化があるのに何故魚を生で食べる。相変わらずそこはわからない。

もう一度シェゾはそれを見送る。状況を整理してみよう。
これは生だ、確かに。そんな野蛮人のようなことをしているまぐろからはしかし血の匂いもしなければ文化的ですらあった。
こんな文化を見たことは、思いかけてひとり行き着く。
そうだ、自分は直接繋がりがなかったから詳しくないが、アルルが以前これに似た話をしていたことを思い出す。そういう文献もあったかもしれない。

確か…そう、日出ずる国!!

そこにいたマサムネとかいういけ好かない侍とやらが、そうだ思い出した。そういえば何かあった気がする。

とするとこれは文化だ、やはり。

わざわざ切り落としてあるのがその証拠だ。調理は文化。野蛮であるならそのまま出てくる。すなわちこれは人間の食べ物。

他の文化は受け入れてこその文化。頭の堅い研究者にはなるなと、唯一師と認めるアスモデも言っていた。
もっとも、サタンレベルまで柔らかくなりすぎるのも考えものだが。

文化であるなら話は早い。シェゾは箸をとる。先程のまぐろの使い方はできそうにないからとりあえず刺してみる。
それで、たしかこの黒い調味料につけて食べるのだ。

「あれ、お兄さんフォークいらない?」
「問題ない」

ちょうど戻ってきたまぐろが銀色のそれを差し出すが、シェゾはとりあえず二本の棒で突き刺した生魚を見ながら答えた。
そのあまりに真剣なその様子に、まぐろは一応、笑い出すのだけは止めておいた。
そうして不器用な異人がそれを食べるのを黙って見送る。
本当に野良猫みたいだなぁと思いながら、改めて食卓につけば、小綺麗な客人はその食事を飲み込んだ。

「………うまいな」
「でしょ?うちの魚だもん」
「ん…、じゃあ改めて、馳走になる」
「お粗末様です」

しかしいただきますの文化があって言葉まで通じるのに刺身ひとつでこれとは異世界とは不思議なものである。

今度箸の使い方教えてあげようと思いながらまぐろは茶碗を手にとる。そういえば最初玄関で靴を脱ぐのも不思議がっていたっけ。

「じゃあぼくも改めて、いただきます」

刺身を食べながら、まぐろは、例えば泊めてあげてお布団とか敷いたらどんな反応するんだろうなぁとぼんやり思った。
‐‐‐‐‐‐‐‐
異文化交流第2段。
言葉とかは多分サタンさまの魔力でどうにかなってるんだと思います。
しかし生魚の風習が魔導界にあったら終わる(笑)
……なかったですよね?←(確認しろ)

書いてる途中でマサムネさんたちの国のことを思い出した(爆)帰ったら確認しようかな…(汗)

単純な外国と違って「異世界」だから余計にギャップがあるといいなぁというか。中途半端に通じるギャップ。

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