ぷよ7ネタまつり
サタエコシェ
一瞬で左手が使い物にならなくなった。

「……え?」

ぱん。と。
どこか気の抜けた空気の弾ける音はそれから遅れて届いたと思う。それが文字通り音速を超えた向こうからの攻撃だったと気付いた時には身体が勝手に反応していた。

思考はついて行っていないが、殺気に慣れた体が反射で動く。
左に転ぶように動いた首筋に僅かにかすったそれが血を滲ませる。
背筋に一瞬で這い上がったその感覚は彼が今まで感じたことのないものだった。

先程自分の首を掠めたのは足だ。硬いヒールの踵が迷わず急所を狙ってきた、その行動に覚えたのは言いようのない感覚。抱いたことのない感情。それは高揚に似ているが決定的に違う。
なんだこれは。

「ふむ、避けたか」

戸惑う此方に対する目の前のそれは瞳に小さく不快感を灯しただけでこれといった感情は動かさなかった。
無感情、とは違う。彼は最初からあるひとつの感情を表に出したまま抑える様子は微塵もなかったから。

「その躰に救われたなぁ?」

言いながら口の端を吊り上げる。だが眼が笑っていない。放たれた殺気も緩むことはない。目の前のそれは、先程から怒りの感情を一片も揺るがせることなくただそこに君臨していた。

このままこのペースに呑まれてはならない。その殺気を放ったままのそれ、魔王様がもう一度動く前に、なんとか右手で体を起こした闇の魔導師が慌てて口を開いた。

『やだなぁ、随分と扱いが違わない?』

うっすらと汗を滲ませて笑うその声が若干ぶれている。そのことにサタンが目を細めた。

「黙れ。黙らないなら喉を潰すが」
『何それ、いいのそんなことして』
「先程腕を飛ばされたのにも気づけないのかお前は」
『ちょ、やだなぁ魔王様わかってないの?この体は…』
「シェゾの躰、だろう?この出来損ない」

出来損ないと称されたシェゾが微かに眉を潜める。そう、今のシェゾはシェゾではない。
もう一度魔王様でもからかって遊んでやろうと思ったエコロが、器を借りているだけのものだ。
器自体はアルルより使いやすかった。アルルより自我が強くないシェゾの精神は押さえ込むには割と楽で。元々闇属性のエコロには体の相性も良かったのだがしかし。

その後の展開がエコロの予想外だった。

アルルの体を使っていた時には口では殺気を醸しつつも手を出せなかったはずのこの魔王が、あろうことか迷わず殺す勢いで攻撃をしかけてきたのだ。
まさか攻撃されるとは思わなかった。身体を人質に取れば大抵のものは手を出してこない。はずだ。だが、なんだこれは、なんだこれは。

『わ、ちょ、と、まちな、よっ』

続いた攻撃に思考がついていかないものの体は的確に反応する。先程体に助けられると称されたがまさにその通りだった。エコロは完全にサタンの攻撃を追い切れていなかったが、殺気に慣れた器であるシェゾの体が反射に近い動きでわずかに急所を外していた。

皮肉にも奪い取った器に守られている。だが、その事実が更にサタンの機嫌を損ねていることにエコロが気づいた。膨れ上がる殺気、再び這い上がる感情に無意識に体が震える。
場を繋がないと持たない。

『や、だなぁオジサン、恐いよ?』
「だから何だ」
『意外だなぁ、そんなにこの人嫌い?仲良さそうだったの、にっ?!』

言った瞬間、視界からサタンが消えた。

「ああ」

次に気づいた時にはサタンの右手がしっかりとシェゾの首を捕らえていた。殺意のこもった右手は一切の容赦もなくシェゾの身体を床に叩きつける。がつんと、派手な音と共に背中を強打して息が止まる。
僅かに瞳を開けば空を背に此方を見下ろす魔王と眼が合って。

「大嫌いだよ、貴様がな」

言って口を吊り上げた。押さえた右手はそのままに魔力を込めた左手を引く。ようやく消せる、そういう顔をしていた。体が震えた、本能が告げる。殺される。
おかしい話だ、身体を人質にすれば大抵の者は手を出せない、だから好きに遊んでこれたのに。少なくともこの魔王とこの器は仲が、悪くは無い様に見えたが、それなのになんだこれは。

『なん、で』
「良いことを教えておいてやろう。コイツは首さえ生きていれば死ぬことはない」

そこでもう一度魔王は瞳を細める。血の色の奥に宿した闇に、呑まれそうになる。

「……そして」

魔王が口から零した闇。完全に標的を誤った。遊び方を間違えた。

死なない体なら傷つけることは厭わないのか、歪んでいる、否、何処までも歪み無い事実。
邪魔をするものには容赦なく、赦されない冗談は最初から無かったことにされる。間違えた者に対する制裁は強制排除。気に入らないものは消せば良い。

「コイツの体を好きにしていいのは、私だけだ」






そこではじめてエコロは気づく。この興奮に似た言いようのない感情の正体は。

恐怖だと。





(どうやら自分は、絶対に敵に回してはいけない人物を、最悪の状態で敵に回してしまったらしい)
−−−−−−−
※うちのサタン様は総攻です※(今更か)
※うちのサタン様はエコロのことが大嫌いです※
※うちのサタン様は嫌いな人には一切の容赦がありません※

っていうかあれです、最後のセリフを言わせたかっただけです。サタエコシェたまらんです。エコロおいしいです。

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