君、死に給う事無かれ
(蕾と笑い飛ばすとも)

「なんだそれ」
「ブランデー」
「斬られるぞ?」
「バレなけりゃいいんだよ」

部屋に入ったらいきなり酒の匂いがした。

昼間っから酒をあおっている不健康の手にしているそれが不意に気になってカミュが声をかけたら、当の本人はさらりととんでもない発言をするとくつりと笑って瓶を傾けた。
ああどうりで。日本酒にしては妙な色をしていると思えばそれは外国酒だという。

仮にも幕府側の人間がそんなことをしていいものか、士道に背いてやいないか。背いたら切腹だと言ったのは目の前の男だったと思ったが。
カミュが見下ろせばシェゾは気付いているのかいないのかゴロリと体を仰向けにした。

「何、手前で腹切れって?」

それから着崩した着物の間に覗いた肌に指を立てる。
ぱたぱたと、変な動きをしたために瓶から顔にこぼれた液体を腕で拭ってまた笑う。

けらけらと。

その笑いにため息をついてカミュは襖を閉めた。どちらにせよ今人に来られては困る。

「シェゾ、酔ってるのか」
「まさか、馬鹿にすんな」

言えばムスッと口を尖らせる。意識ははっきりしているし呂律も回っている。だが本人は気付いていないのか、酒が入ると彼の感情表現が幾分か素直になることを。

もっとも、彼が気を許した相手に対してだけだが。

その様子にカミュが苦笑と共にため息をつく。それから酒を取り上げようと手を伸ばした。ら。

「お前にはやらん」

威嚇された。
べちんとなかなか景気のいい音をたてた右手にゆるい痛みがはしる。シェゾが酒をカミュに渡そうとしないのは珍しかった。

「……なんだよ、気に入りか」
「まぁな」

試しに聞いてみたら大層楽しげに目を細めた。珍しい。そうして彼が自慢気に笑ったから、多分彼が望んでいるだろう言葉をかけてやる。

「……なんて酒だ?」

シェゾが勿体ぶったときは自慢するための言葉を促してやるのが聞き手であるときのカミュの役目だ。
つくづく部下に、とかく彼に甘いなと思いはしたが、彼の機嫌を損ねても良いことはない。

すると待ってましたとばかりにシェゾは口の端をつり上げて。

「カミュ」


そう告げた。

「ん?」
「カミュ」
「……なんだ」
「だからカミュ」

言って瓶を傾ける。悪戯っぽく笑うその仕草にカミュは感づいた。まさか。

「……カミュ、なのか」
「そう、珍しい名前だからついな」

案の定、シェゾの持つ酒の名称が自分の名と同じだという。それは確かにシェゾが遊びたくもなるわけだ、体を起こして瓶の口をちらりと舐めたシェゾが視線だけでカミュを見上げる。人を小馬鹿にしたような態度で大層愉しげに。
カミュは小さくため息を吐くとシェゾの肩に手を置いた。

「で、お味は?」
「……ちょっと甘いか、個人的にはもう少し辛口の方が…」
「そうか」

日本酒と比較したらまぁ甘いものだろう。カミュはそれだけ言って視線を外す。シェゾがけらけらと肩を震わせもう一度瓶から直接酒を口に含んだ。カミュは溜め息と共にシェゾの隣に腰を下ろす。

そして、そのまま噛みつくようにシェゾの口の中の液体を奪い取った。




「っふ……!!」
「ん」

耳裏から顎にかけてしっかりと押さえられてシェゾが一瞬息を詰める。その隙に舌で歯列を開き首の角度を下げさせる。
シェゾの口の中で転がしてから流れてきた液体に喉を鳴らすとカミュはすぐに口の角度を変えた。

「……んぅっ」

今度は上向かせて耳裏に添えた手を首まで下ろし舌を吸い上げる。力の抜けたシェゾの体を押し倒すと同時に、右手に握られていた瓶を、取り上げた。

「……はい、没収」
「な、……おま…っ」

はぁ、と、一息ついたカミュが瓶を片手にシェゾを見下げる。酒とそれ以外の要素に顔を紅潮させたシェゾの抗議の言葉はどこにかかったものかはわからない。したことか、やめたことか、うばったことか、うばいかたか。

「返せ!!」
「だめだ」
「俺のだ!!」
「規律にひっかかりそうなものは没収だ」

じとりと睨まれてシェゾが押し黙る。舌打ちと共に大人しくなったシェゾにカミュがふと目を細めた。

「……それとも、この場で腹を切られたかった?」

言いながら着物の隙から手を滑り込ませて腹をなぜる。
ビクリと跳ねた身体に笑みを深めて耳元で息を吐いたら、シェゾが慌てたように声をあげた。

「わ…かったわかった俺が悪かった!!」
「わかればよろしい」
「………っのやろ…!!」

珍しく手厳しいじゃないかと、乱れた着物を直しながらシェゾがカミュを睨みあげれば、その珍しいカミュが愉快そうに喉を鳴らした。

ひどく、悪戯めいた笑みだった。




「辛口が、好みなんだろ?」
‐‐‐‐‐‐‐‐
注意。うちのカミュシェは回をますごとにどんどん甘くなっていきます。(すごく今更)

サタシェでやろうとしてたワインの名前ネタをまさかここでやってしまうなんて誰が想像しえただろうか、いやない。(反語)

カミュってお酒は本当にあるよ!!甘口かどうかは知らんけど(適当でSKY)

さて3作目でケツに指突っ込んで4作目でディープキスしたから5作目で手でも繋ぐのかな(順番おかしいことに気づいた)



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あきゅろす。
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