君、死に給う事無かれ
(醜く地に墜ちた)

揺れる月影、散る花が青く波紋を描いた水面にその白い首筋ははっきりと。



水面にうつる彼の特異な銀の髪が月の光を受けて妖しく揺らめいて、いた。

小さな吐息をこぼしながら月を見上げる彼の青い瞳は切なげに細められる。
耳が捉えた衣擦れの音。うがんだ水音。震える身体をなぜるは、冷えた春の夜風。視界をよぎった散る花弁に瞳を閉じた。

「……ん…っ、」

先ほどより幾分か熱を持った吐息と共に、シェゾは目の前の男の背に回した左手に力を込める。
握った布に皺を刻んで身を捩れば、貪るように首もとに埋められていた相手の唇がシェゾの耳元で囁いた。甘い言葉。

(醜い、)

己の抱いた感情とは裏腹に囁かれた言葉にはうっそりと微笑んで、シェゾはもう一度だけ息を吐く。濡れた吐息に煽られる様に激しく食らいついてくる男に縋る左手に力を込めて。





ぬぷり、と、(何かに良く似た)濡れた肉の音。ビクリと激しく揺れる体に粟立つ鳥肌。

そうして真横に貫いた男の身体、シェゾは右手に握った刀を一気に引き抜いた。

男の身体から吹き出した血を至近距離で浴びながら、男の崩れた体を何かに喩えようとして、やめた。




(汚れてしまえ、中も外も)





「土方、」
「終わった」

指定の時間きっかりに、カミュがそこに訪れれば、死体を前に刀を握ったまま全身血まみれで佇んでいたシェゾが無感情に振り返ってそう言った。

そして近くにいた隊員に一枚の紙を差し出す。
そこに書かれているのはある場所の住所。

幕府に仇なす連中の、隠れ家の住所だった。

「……間違ってはないと思うが…20人はいないらしい」
「わかりました」
「ご苦労だったな、土方」
「いえ、この程度」

労いの言葉に簡単に答えて払った刀を納める。滴る血は全て返り血なのはわかっていた。
足元に転がるのは商人のふりをした反政府の浪人で、新撰組の情報を奪おうと近づいてきたので、逆にシェゾが相手方の情報を奪い切り捨てたのだ。

やり方は簡単だった。
色を仕掛けてやればいい。

こういうやからは大抵男まみれの所帯で、遊郭に遊びに行くような収入もない。シェゾの見目はもとより通常を逸していたから、一寸糸を引けば哀しいかな案外ぽろりとそれを吐いた。

味方の名前を簡単に売るような浅ましさには吐き気がしたが。

「…大丈夫か」
「………何が」
「顔色が悪い」

その感情が表に出ていたか、死体を見下ろしたまま動かないシェゾにカミュが声をかける。
死体を片付ける隊員がぱらぱらとはけて行く中、小さく肩に手を。

「平気だ」

シェゾは小さくそれだけ言ってカミュに視線を移す。怪我はないし人殺しなんて日常茶飯事。新撰組なんて政府の名を笠に着た人斬り集団だと、呼ばれるようになったのは多分自分のせいだし。

だからいまさら。



その時カミュは血に濡れたシェゾの赤の間から見た。赤だらけから覗く白い肌、その首元にうかんだ赤い、鬱血痕。

「……シェゾ」

特に意味はない、意味はないが不意にカミュはそれに触れていた。何故か。何故だかそれが酷く気になったのだ。

「なん…ですか、近藤さん」

瞬間ピクリと一瞬だけ反応を示すシェゾに感情がざわめく。カミュ脳裏をよぎった思考。だが言葉を繋げる前に、語気を強めに近藤と呼ばれて周りにまだ隊員がいたことを思い出し、カミュは心の中で舌打ちをしてからすぐにシェゾの手を引いた。

「ちょっと来い」

近くにいた隊員に、少し外すとそれだけ告げて近くの路地裏に入る。様子のおかしいカミュにシェゾが少しだけ戸惑った。

「ん、だよ、おま」
「静かに」
「だから何……ちょっ!!」

カミュは何も言わず路地裏にシェゾを押し込めると、すぐに袴の脇から手を差し込んで着物を、捲り上げた。

「やめ、」

慌てたシェゾが制止の言葉をかける前に秘部に指を押し込む。



ぬぷり、と、(何かに良く似た)濡れた肉の音が、した。



「……シェゾ」
「……」





もう一度今度ははっきりと名前を呼ぶ。シェゾは応えなかった。

抵抗も無く指を受け入れた其処は確かに濡れている。どろりと指に絡みつく何か。これは濡れているというよりは、むしろ。

「出させたのか」
「……別に、刺したらそのままイっただけだ」
「挿れられたまま殺ったのか、馬鹿おま…」

事実にカミュは言う言葉を見失った。彼が色を仕掛けて情報を得ていることは知っていたが、何処までしているのかは知らなかった。聞くのは悪い気もしたし。

叱ろうとして、そうさせているのは自分だと言うことに気付いて言葉につまる。
するとシェゾがそれを読みとったか、鼻で笑った。

「…悪くないぞ?逝きながらイく瞬間とか、正直」
「シェゾ、」
「まぁこっちも楽しませてもらってるわけだし」
「…シェゾ、いい、」
「俺が好きで出させてるわけだから」
「……もういい」
「お前が気にすることじゃ」
「シェゾ!!」

ぎり。軋んだのは体が心か。
カミュがシェゾを力の限り抱きしめてその体に顔を埋めたら、シェゾは一瞬息を飲んでその背に手を回した。

「……んだよ、苦しいぞ」

ぽんと、右手で叩いてやったらカミュが無言で息を吐く。震えた肩は怒っているのか泣いているのかわからない。シェゾは緩やかに口を開く。

「泣いてんのか」
「いや、怒ってる」
「誰に?」
「…………嘘つきにだよ」

言われてシェゾが瞳を閉じる。強すぎる抱擁に骨が悲鳴をあげている。息が出来ないと文句を言えば、当然の報いだと一蹴されて離してはもらえなかった。

(嘘つき、か)

カミュがその言葉をどこにかけたのかはわからない。だが、叱られたのは久しぶりな気がした。そして息を吐く。

零れた吐息は湿っていた。





「別に今更、どうでもいいと思ったんだ。俺は汚れてるから、どうせなら何処までも」

静かにそう、応えて背中に手を回したら、絞められた力が緩くなる。

「馬鹿だろう」
「……かもな」

シェゾは今度は笑わなかった。カミュがぽんとその頭を叩く。

優しく抱かれるのは久しぶりな気がした。





‐‐‐‐‐‐‐‐
うちのカミュシェは何処までいくのかわかりません。

この後えろ突入ですねわかります←←
あ、けど書く予定はありません。




(……ていうかさ)
(ん?)
(いくらなんでもいきなり指突っ込むヤツがあるか?)
(あぁ…すまん実は正直欲情した)


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あきゅろす。
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