死んでも振り返るな。それが持論だ。 戦陣においては隊員の生死について気を使っている暇はない。新撰組の仕事とは常に混戦であり、そもそも仲間全員と共に戦うことなどありはしない。 それでも心配したことはなかった。彼の腕はおそらく組随一、自分よりあると思っていたから。 だから最初は耳を疑った。まだ片付いていない戦場での連絡員の言葉に。 「局長!!…土方さんが、負傷を」 まさかと、思った。 「土方!!」 連絡をうけた近藤がそこについたとき、その場にいたのは土方と隊員数名だった。 「いいからお前らは行け!!」 「しかし…」 「大丈夫だっつってんだろ」 うろたえる隊員を叱咤したのは幾分か顔をしかめた土方で、その姿を認めて近藤は一瞬安堵する。 だがその顔色が陰っている事実に急いでそこに歩み寄った。 「…土方、平気か」 「!!……なに近藤さんまで戻って…来て…」 「お前が負傷したって聞いてな」 言って肩に手をかける。払われるかと思ったが微かに体重がこちらに傾いてきたので、近藤は小さく目を細めた。払うつもりはないと、いうことは。 「……あぁ、君たちはいい、先に行ってくれ、俺が見よう」 近藤はすぐに、そうその場にいた隊員に言うと、隊員らは安心したように頷き場を後にする。 「平気か…シェゾ」 その後ろ姿を見送ってからカミュは改めてシェゾに向き直った。シェゾの不規則な呼吸が耳を捉える。滲む汗の量が平常よりはるかに。 「……珍しいな、負傷したって」 「ほっ…とけ」 「そうはいかない。けどどうして…」 彼が遅れを取るなど、と、そこまで言って気づいた。触れた肩の持つ熱の高さ。血の気の薄れた頬に相反して瞳に籠もる熱。濡れた呼吸に、浮かんだ汗、は。 カミュは急いでシェゾの額当てをとり、そこに手を当てる。すれば案の定、そこは確かな、通常ではない熱を持っていた。 「まさか、これで出てきたのか?」 言われたシェゾはもう一度体重をカミュに預け、彼の肩の位置で息を吐き、笑った。 「"風邪"で出撃を見送るのは…臆病風に吹かれたやつの代名詞だろうよ」 「ば…、だからって本当に風邪の時くらいは休めよ…!!」 シェゾは確かに鼻で笑うと、静かにカミュに手を伸ばす。そしてその頬に手を当てるとその冷たさに瞳を閉じた。 一瞬身を捩った彼の隊服の下、既に手当ての済んでいるはずの包帯に赤が滲むのを見てカミュがピクリと体を強ばらせた。 「…カミュ」 「なんだ」 「……流石に、ちょっと、…キツい」 それは珍しい彼の弱音だった。完全に体を預けたシェゾの肩を強く握って、カミュは地面においてあったシェゾの血に濡れた刀を握る。 「ああ」 死んでも振り返るな。 それは彼らの持論だったが、生きている以上は命を賭して仲間を守る。それはカミュが決めていたことだった。 「……君は寝てていい、後は俺がやるさ」 言って抱き寄せた肩は、存外細かった。 (休んでくれていても誰も君を置いては行かないから、どうか君も置いては逝かないで欲しい) ‐‐‐‐‐‐‐‐ なんか一般的な沖田ポジションな気がしないこともないんですが気にしない気にしない。 しばらく近土のターンwww [*前へ][次へ#] [戻る] |