さらり、流れた風に桜の花びらが散るさまを、どこか哀しげに見送ってカミュは湯呑みを傾けた。 桜のはなが散る様は美しいがどこか儚げだ。それはまるで。 「呼びましたか、近藤さん」 「……ああ来たか、土方」 そのとき、斜め後ろ、無遠慮にしかし無音で襖が開かれて声がかかる。声の方向には目は向けずカミュは庭の桜に目を細めた。 近藤、それが今此処でのカミュの呼び名だった。 襖を開けたのは白銀の髪に蒼い目を持った麗人だ。土方と呼ばれた彼はつまらなそうに桜の花に視線を流してから、カミュに移す。 そして呼びつけておきながら要件を言わない相手にもう一度。 「近藤さん」 「カミュでいい」 「…………なんか用か」 瞬間、言葉遣いの変わった彼にカミュは苦笑して、すぐに嬉しそうに視線を返す。 此処で近藤と名乗るカミュの本名を知っているのは、彼だけだった。彼と同じく、名前を土方と偽って生活しているシェゾ。 だからカミュは、ふたりきりの時はカミュと呼ばれることを好んでいる。 「相変わらず変わらないな、嬉しいよシェゾ」 「そうすぐに変わるかよ」 「移ろうものだよ、季節も人も」 変わらないのは毎年咲く桜の花だけだよともう一度視線を移す。 カミュが此処で近藤と名乗れば、カミュという人物は近藤に変わっていくように。シェゾは他人に敬語を使わないが、土方と名乗るときは喋りが幾分丁寧なように。 鑑賞にひたるカミュを後目に、シェゾは歩みを進めてカミュの隣に立つ。 まだ、呼ばれた本題を聞いていない。 「で?何だよ」 するとカミュは少しだけ言いにくそうに視線を泳がせた。 「こないだ捕まえた諜報員のことだが…」 そこで言葉を切ると一瞬息を詰まらせる。するとシェゾが理解示し視線をあげて呆れたように息を吐く。 「わかった、俺が吐かせとく」 「…悪いな」 「別に、どうせお前には出来ねぇんだろ?」 「………すまない」 「気にすんな、それが俺の役目だよ」 「俺も出来たらよかったんだが…」 「やめとけ、拷問なんて…出来ない方が良い」 お前まで汚れる必要はねぇよ、と笑ったシェゾの銀糸が光を受けて煌めいた。その様は美しくもどこか儚げだった、桜のように。 「だから局長さんは汚いことに手を染めんな」 そして視線を桜に移す。汚れた仕事は全部彼の仕事だった。カミュはもう一度シェゾを見上げてから、散る花びらを見送った。 桜の花の下には死体が埋まっているという。その死体の血で、仄かに赤く染まっているのだとしたら、桜本来の花の色は、まっさらな白。 それは、まるで。 (ならばせめて、戦場で彼を赤く散らせることのないよう) (桜になんかさせてなるものか) ‐‐‐‐‐‐‐‐‐ アル漫より近土。新撰組では土方さん好きです〜って言いながら出てくるビジュアルってかキャラが銀魂でもピスメでもなくシェゾなのは私だけじゃないといいな!! あれこれってカミュシェ?近土? [次へ#] [戻る] |