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「っはぁ、……ッア、あ、ああ──……!」

 絞ったように細い悲鳴を上げて千明が二度目の絶頂を迎えるのに、さして時間は掛からなかった。

「……っ、は……っ」

 一際大きく背筋を撓らせて仰け反った後、千明の身体が弛緩した。

 酸欠になるほど絶え間なく攻め立てられたせいで、意識を飛ばしてしまったものらしい。

 未だ息は荒く、まるで糸の切れた人形のように投げ出された四肢が微かな痙攣を繰り返しているものの、固く落ちた瞼はぴくりともしない。

「……二回目」

 生々しい音を立てて口内に放たれたものを飲み下してから、南波は少年の股間からゆっくりと顔を上げた。

 この手の薬物に通じている訳ではないから何とも判断のつけようがないが、恐らく媚薬の摂取量がもともと少なかったか、あるいはさほど強い薬ではなかったのだろう。

 強制的に嬲られ、吐精させられた千明のものは、既に元の形状を取り戻しつつある。

 それが極力視界に入らぬよう細心の注意を払って立ち上がると、南波は唾液と精に塗れた少年の下肢をポケットから取り出したハンカチで丁寧に拭ってやった。

 本当なら熱い濡れタオルでも用意してやりたいところだが、あいにくそんな気力は微塵もない。

 役目を終えたハンカチをごみ箱に放り投げ、乱れきった千明の衣服を何事もなかったかのように整えたところで──力尽きたようにソファの足元に凭れ掛かりながら座り込む。

「終わった……」

 見知った者が今の彼を見たら軽く二、三十歳くらい老けた上、ちょっと干からびて見えたかもしれない。

 罅割れた声とともに、南波は肺の中の空気を全て搾り出すような溜息を吐き出した。

 長かった──全くもって長く、厳しく、滾る時間だった。

 だが、これでようやく介抱も終わりだ。

 最後にひとつだけ残されたあの“事後処理”さえ終えれば、この頭の中の欠陥が軒並み破裂してしまいそうな忍耐地獄からようやく解放される。

 そう、たったひとつだけ残された最後にして最も重要な処理。

 それは……

「………………今度は、こっちを戻さなきゃなんねえな」

 敢えてどこがとは言わないが、爆音でも聞こえてきそうなほど物凄い絶頂期を迎えた部位を意識して、南波はがりがりと頭を掻いた。

 はっきり言ってこちらを抑えておくのももはや限界だ。

 早速、無言のまま手洗いに立とうとして──ふと、背後を振り返る。

「…………」

 振り返った視線の先、ほとんど目と鼻の先で、ソファの上に横たわった千明が静かに寝息を立てている。

 既に穏やかな呼吸を取り戻した少年の寝顔はどこか幼けない。

 それを暫時無言で見つめたあと、南波はぽつりと呟いた。

「……お前、目が覚めたら、このこと覚えてんのか?」

 無論、意識のない少年から答えが返るはずもない。

 だが、そうとわかっていても、南波は問わずにいられなかった。

 もしもこの記憶が残ったとしたら、こいつは何を思うだろう?

 あれだけ性的に濃厚で露骨な接触をしたのだ。

 男として意識するきっかけになるならまだいいが──もし、軽蔑でもされてしまったら?

「覚えていようが忘れちまおうが、どっちでも構わねえが……」

 吐息のように薄い嘆息を零してから、南波はそっと眠る少年の額に己の額を触れ合わせた。

 微かに喉の奥で苦いものを感じながら、半ば祈るような気分でその言葉を囁く。

「……頼むから、もう顔も見たくないとか言うんじゃねえぞ」











(お前に“嫌いだ”と言われたら、多分)



(心臓が)

(止まる)




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あきゅろす。
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