04
「……わかった。ほんじゃ早速、飯食いに行くか」
嘆息とともにそれ以上の追及を断念すると、俺はしぶしぶ貴雅の意見に同意した。
机上に広げていた自習道具を大雑把に片づけてから、既に裏庭へ向かうべく席を立っていた愛ちゃんたちに合流する。
……このとき、俺は全く気づいていなかった。
「…………」
俺の傍らで、エロプリンスが何かしょうもないことでも企んでるような面で、にんまりと唇を吊り上げたことに。
◆ ◆ ◆
裏庭既に本格的な花見の用意が始められていた。
どうやらエロスの星の王子様はSPのみならず、配膳用の使用人まで引き連れてきたものらしい。
たかが高校背の花見にしてはやけに物々しい警備の下──黒服のマッチョメンズ四方を固められた桜の下には大きなピクニックシートが敷かれ、糊のきいたエプロンドレスを纏った若いお姉さん方が数人、丁寧だが無駄のない手つきで見るからに手の込んだ料理やら飲み物やらを広げている。
……何だこれ。
生のメイドさんなんて秋葉原以外で初めて見たんですけど。
「──お坊っちゃま、食事の用意が整いましてございます」
「ご苦労様ー」
恭しく頭を下げるメイドさんを労うと、貴雅は呆気に取られた顔で立ち竦んでいる俺たちをシートの上に促した。
「さ、座って座ってー」
「……すんげえ……」
狐に摘ままれたような顔でシートに腰を下ろしながら呆然と呟いたのはミッチーである。
無理もない。
金粉の鏤められた重箱には、キャビアやトリュフを始めとする高級食材をふんだんに使った豪勢な料理が彩りも鮮やかに盛りつけられ、まるで一流ホテルのバイキングにでも紛れ込んだかのようだ。
真っ赤に茹で上がった甲殻類はザリガニにしちゃ随分と体格がいいから、たぶん伊勢海老だろう。
その隣は何と鯛の姿造りだ。
間違っても高校生が不良校の裏庭で食べるもんじゃない。
「なあ変態ー、コレって食っていいの? 全部タダ?」
「……じゅるり」
「……じゅるり」
揃って涎を垂らした大食漢ニッシーと愛ちゃんの傍ら、物珍しげな目で料理を見回しながら問いを発したのは吉澤だった。
さすがに数多の同級生を退学に追いやってきた元いじめっこは、ちょっと学校の裏庭で伊勢海老出されたくらいじゃ肝なんか抜かれないらしい。
しかもズバッと勘定の有無を直球で聞いちゃう辺り、かなり強かだ。
一方、
「もちろんいいよー」
それに対して、エロプリンスは鷹揚に頷いた。
吉澤の身も蓋もない問いかけに気分を悪くした様子もなく、二つ返事を返す。
「おかわりもあるからどんどん食べてー。ちなみにお刺身はうちの専属シェフが家庭科室を占拠して産地直送の品物を捌いてるから、鮮度抜群だよー」
「えーマジで? 変態王子、気が効くじゃーん。そんじゃ遠慮なく……いただきまーす」
「……イタダキマス」
「いただきまース!」
「い、いただきます」
「……っす」
「いや占拠って……あー、まあバレたら謝ればいっか。いただきます」
「どうぞどうぞ召し上がれー」
愛ちゃん・ニッシー・ミッチー・市川、それに俺──吉澤の挨拶を皮切りに、俺たちはそれぞれ箸を持った。
遠慮も何もなく、はなっから頬いっぱいに食べ物を詰め込み始めたのは愛ちゃんとニッシーだ。
その傍ら、ほとんど実物を見る機会すらない高級料理に柄にも気遅れしているのか、三橋と市川がおっかなびっくり箸をつけ始める。
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