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03


「…………」

「…………」

「……! な、何だ、てめえら、その妙な目付きは」

 俺とミッチーが無言で注いでいた可哀想な子を見るような眼差しに、おニブな市川も気づいたようだ。

 筋肉ゴリモリのマッチョメンに腕っ節で負けたっていうんならともかく、優男の変質者に貞操狙われて女の子みたいにビビってるだなんて死んでも悟られたくないらしいマリモマンは、必死こいて虚勢を張った。

「お、俺は別にこの痴漢野郎にビビってる訳じゃねえぞ! そ、そ、そんそんそんなエロエロエロいだけの宇宙人になんて、だ、断じてビビってなんか、ねえんだからな!?」

 ……台詞は強気だが、声がめっちゃ裏返ってる上に両手で乳首隠してる様子が痛々しい。

 うーん、どうしようこれ。

 本人否定してるけどこんだけあからさまに嫌がってるマリモを参加させるのは哀れだし、けど、かと言ってそれをまんま伝えたら逆に意地張っちゃいそうだしなあ。

 ぬーん……

「──そんなに怖がらなくったって大丈夫だよぉ、イッチー!」

 俺の懊悩を嗅ぎ取ったように太平楽な声が上がったのはそのときだった。

 声の主は俺の傍ら──さっきの脅しを真に受けて、有り得ないところからお花を咲かされまいとここ数分、沈黙を守っていた貴雅だ。

 そろそろ口を開いても許されるだろうと踏んだのか、エロスの御曹司はビビる市川に擦り寄るや、やたら馴れ馴れしく肩を抱く。

「安心してよ、今日はイッチーの乳首は触らないからー。みんなで一緒にご飯食べて、ぱーっと楽しもうよ!」

「ひー!」

「やだな、そんないきなりお尻に指突っ込まれたみたいな悲鳴上げないでよー」

 止める暇もありゃしない。

 戦慄くマリモマンを抱き寄せて密着すると、貴雅は緑髪の下で強張る耳朶に唇を寄せた。

「ね? お花見、ぜえったい楽しいよー? だって──」

 “だって”──何て言ったんだろう?

 ふいに潜められた声音のせいで俺たちにこそ聞えなかったが、密着させられてた市川にはしっかり貴雅の言葉が伝わったものらしい。

「……あ?」

 虚を突かれたような表情で目付きの悪い双眸を瞬くと、市川は間近に迫った18禁御曹司の見た目だけは端整な顔立ちを見つめ返した。

 珍しく怯懦の態度を見せないまま普通に問い返す。

「…………それ、マジか?」

「もちろんほんとう」

「…………」

「…………」

「………………わかった、仕方ねえから俺も参加してやる」

 ええ!?

「ちょ、オイ貴雅おま……どうやって市川その気にさせたんだ?」

 仏頂面ではあるが満更でもなさそうな顔で頷いた市川を横目に、俺は貴雅の襟首を引っ掴んだ。

 市川本人に聞いたってどうせ、「ん、んなことどうだっていいだろ!」とか無駄にツンデレされて終わりだろうから、マリモマンから変態を引っぺがして問い質す。

「市川に何言った? 有り得ないっしょ、あいつが素直に頷くなんて! 道端で偶然出会した露出狂にナンパされて、一緒に飯食いに行くようなもんなのに!」

「ふっふっふー。実はねー、とっておきの餌があるんだー」

 一方、それに対して、エロスの王子様は自慢げに含み笑った。

 ちなみに自分が露出狂と同列に評された件に関してはスルーしたらしい。

 俺が放った台詞の後半部分には一切言及しないまま、偉そうに宣う。

「千明にもお花見のときに見せてあげるよー。だから、今はまだナ・イ・ショー」

「は? ナイショって──あ」

 尚も突っ込んで聞こうとした俺の声を遮って、教室内に鐘の音が響き渡ったのはそのときだった。

 自習そっちのけでぐだぐだやっているうちに、四時限目が終わったのだ。

「ほらほら授業終わったよ、千明! 早速お花見ランチしに行こー!」

「え」

 ちょ、まだ話終わってなー……って、まいっか。

 どうせ昼飯のときにわかるって言ってんだし。




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あきゅろす。
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