01
「ちーあっきくーん、いっしょにおはなみしませんかぁ〜?」
「は?」
四時限の授業時間も残り僅かとなったその日の正午――いつものように教師不在で自習中だった二年E組に乗り込んで来るや、開口一番そう宣ったそいつの発案に、俺こと篠原千明はシャーペンを握ったまま、ぽかんと口を開いた。
窓硝子越しに見える三月中旬の空は文句なしの快晴だった。
ここ数日の暖気も相俟って、東高のあちこちに植えられた桜も盛りを迎えている。
確かに今日の陽気は花見には打ってつけだろう。
俺だって発案者がこいつ以外の誰かだったなら、きっと二つ返事で賛同していたに違いない。
……そう、うちの学校にいるはずがないこいつ以外だったなら。
「……何でうちのガッコにいんの貴雅」
「……変態」
「あーマジだ、変態王子じゃん。何でこんなとこいんのぉ?」
幼稚園児みたいに無邪気なノリで教室に飛び込んできた花見の発案者――頭の中は常にエロ花粉指数MAXだよ一色貴雅を見開いた目で見つめたまんま、俺は白昼夢でも見てるような気分で尋ねた。
俺に続いて声を上げたのは、小学校のグループ給食みたいに机で島を作って一緒に自習してた愛ちゃんと吉澤だ。
更にその隣では、貴雅と面識のあるイッチー・ニッシー・ミッチーの元・吉澤腰巾着三人衆が地味に顔を顰めている。
特に胸筋の形が好みだとかで、危うく乳首を開発されかけたことのあるマリモマン市川の渋面は半端ない。
……って、んなこたどうでもいい。
問題は目の前にいる変態ですよ。
物凄い自然に入ってきたけど、こいつは歴とした他校生だ。
偏差値とか授業料その他諸々の諸経費が馬鹿高いお坊っちゃま高校の。
それが何でここにいんの?
「いやお前、自分の学校は?」
「え? うちの学校? 今日はねー、創立記念日でお休みなんだー」
一方、アホみたいに口を開いてる俺の傍ににこにこ笑いながら歩み寄って来ると、エロプリ貴雅はまるでそこが通い慣れた自分の教室であるかのような安さで斜め前の空席に腰掛けた。
周りからはうちのクラスの不良連中の「誰だお前」的な視線が集中しているが、全くもってこれっぽっちも気にしちゃいないらしい。
のんびり頬杖なんぞ付きながら、俺が解いてる自習プリントを覗き込みつつ口を開く。
「だから、お昼休みに千明と一緒にお花見しながらごはん食べようと思って誘いに来たんだよー」
「いやいやいや、おま、誘いに来たんだじゃねーでしょ何普通に他所の学校入ってきちゃってんの?」
……まあうち元々が無法地帯だし、ちょっと一匹18禁星人が入ってきたくらい特に問題ないだろうけども。
ハラスメントパワーは半端ないが腕力0だし。
むしろ素敵なカモに……って、
「そういやお前、よくここまで何事もなく辿り着けたな」
不自然なことに思い至って、俺はふと眉を開いた。
休日だっちゅーことであの無駄にブルジョワジー溢れる白いブレザーは着ていないから、ぱっと見じゃあお坊っちゃま高校生だとはわからんだろう。
が、こんな御品のいい王子様フェイスが校内を歩いてたら、取り敢えずカツアゲしたくなるのが東高生の習性だ。
ましてやうちの不良どもは授業中でも勝手気儘に出歩いてる奴が多いから、貴雅が誰にも見咎められずに辿り着いたとは到底思えない。
しかし、目の前の変態には衣服の乱れはおろか、誰かに絡まれたような様子は微塵もない。
「あれ? うちの学校の奴らに絡まれたりしなかった?」
「ああ、それは大丈夫ー」
俺が目を丸くして尋ねると、18禁御曹司はにこやかに教室の戸口を指差した。
「ボディガードに家からSP連れてきたから」
「…………」
……SPって、あれか。
あの戸口に仁王立ってる黒服サングラスのでっかいゴリマッチョ×2か。
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