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小説
1



「えーと、君が秋雨(あきさめ)だな? 俺は雨都(うきょう)。君と一緒に暮らす事になる。よろしくな」

「よろしくお願いします!!」


内心不安で一杯だろうに。
君は元気よく俺に頭を下げた。






1.擬人化動物






事の起こりは初秋。
擬人研究所の職員である、シオンさんと出会った事からだった。

擬人研究所には、人間に憧れている動物たちがいて、彼等を指導する人間を探しているのだと言う。

何とも荒唐無稽な話だと思った。
しかし何故か、シオンさんに気に入られたらしく、一人(一匹?)面倒を見てほしいと言われたのだ。


「犬、猫、狐、兎、狼。この五種の中から選んで下さい」


いきなり言われても…。

俺は無類の動物好きなのだ。
選べったって…困った。



迷いに迷って、狐を選んだ。


「名前は如何しますか?」


これまた困る質問だ。
う〜ん………。


「『秋雨』で」


一応、季語の「秋の雨」からつけてみた。
まあ、「最強の弟子ケンイチ」のネタでもあったけど。


「では後程」


そう言って、シオンさんは去っていった。






そして冒頭に戻る。

秋雨は狐らしい顔つきと、綺麗な黄色の髪の持ち主だった。
その事に少しばかり見惚れる。



…擬人研究所…マジだったんだ。
少々疑っていたのだが。
…なんかスイマセンでした。



シオンさんによれば、彼等は会話が大好きで、回答如何に因って機嫌が上下する。

彼等は勉強で感情を学ぶ。

彼等に合わせた服が専門のショップにあり、仕事をする事でお金を得る(これは人間と同じ)。

他の擬人化動物たちとじゃれあう事で経験を得る。

似合う服を薦めたり薦められたりする事も、アドバイスをしたりされたりする事も、貴重な経験となるらしい。

ちゃんと休息を摂らないと、擬人化が解け、耳と尻尾が出るという事も。
要はアレだ、疲労が溜まると翌日に持ち越すってやつだな。


「人間の事を教えてもらうので、彼等は貴方方を『先生』と呼びます」

「ふむ」

「それともう一つ」

「何か?」

「会話に因る機嫌の上下はお話ししましたが、実は好感度も上がります」

「好感度?」

「最初は『普通』なのですが、好感度に因って『好き』とか『愛』とかになります」

「………はい?」

「では雨都先生。あとはよろしくお願いいたします」


見事に固まった俺にキラキラな笑顔を残して、シオンさんは帰ってしまった。

残されたのは、固まったままの俺と新しい家族の秋雨。






もしかして、とんでもない事を引き受けたんじゃなかろうか。

………どのみち、家族となった秋雨を放り出す気は無い。



やるだけやってみるか。


「じゃ、明日から頑張ろうな」

「はい、先生!!」


元気よく返事する秋雨。

…一緒に勉強するってのもあり、だな。






後々、秋雨に因って色んな騒動に巻き込まれる事を、俺はまだ知らない。



'11.11.28

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あきゅろす。
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