指切りC
大学というものの広さを、久しぶりに体感した。
「すみません、少し迷いました」
大学パンフレットをぐるぐると回して解読し、結局通りすがりの生徒に案内してもらった。
幾つもの教室、私服の学生、独特のざわめき。
大学は、高校にはない雰囲気がある。
「いえ、私が下までお迎え出来れば良かったのですが…丁度講義が入っていたので」
開けた窓から風が入り込んでいた。そっと外に目をやると、でこぼこした街並みがきれいに見渡せた。
…私は、この景色を観たことがある?
自身への問いを、心の中で呟いた。
「こちらへどうぞ」
促された椅子に腰掛けると、直ぐに目の前のテーブルへと珈琲が出される。
「ありがとうございます」
「…どうですか?」
教授は、散らばった白い原稿用紙を拾う。私はそれを眺めながら、やはり懐かしいです と言った。
「何も変わっていないんですね」
「!…え、ええ」
「あ…当たっていましたか…?もしかして」
直感的に思った事を言うと、教授は心底驚いたように私を見た。
お互いに、そうかやはり、と小さく頷き合う。
「私は…貴女が最初に訪ねて来た時、貴女が話す事全てを信じてはいませんでした」
「それは…仕方の無いことだと思います。」
教授は私と向かい合う様に座り、自分も珈琲を飲む。離した手を耳たぶに寄せ、首を横に振った。
「非現実だからではありません。事実があっても、ひとつひとつのピースがきちんとした方向を向いていなければ…私達は理解することすら出来ません」
私が戸惑い黙っていると、教授は優しく微笑んだ。
「私は科学者では無いですから。目で見えるものだけが世界だとは思いませんし」
現に私は遥の未来視を信じています。
彼はそうも、付け加えた。
そうだ。
遥には、先見の力があったのだ。
その能力のお陰で、今私はここにいる。
「…私も、遥を信じています。この命も、彼女が繋いでくれたものですから」
風の音が煩くなってきた。
教授は立ち上がり、半分だけ開いた窓を閉めた。
「…もう一度、」
「はい…?」
「もう一度、貴女の話を始めから聴かせていただけませんか?」
「え……」
私は言葉に詰まる。
振り向いた彼と視線が絡み、静かになった研究室にゆっくりと広がった。
「…遥を」
「ええ」
「いえ、遥に…私は」
もう一度、逢いたいです。
《続く》
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