指切りR
「正樹」
誠二が近付くと、正樹はやっぱりなというような顔で2人を交互に見た。
そして、口の端を上げてにやりと笑う。
「その様子だと会えなかったみたいだな。ばあちゃんにでも追い返されたか?」
「………」
誠二はむっとしたように 関係無いだろ、と短く返した。そんな態度を気にする風もなく、正樹が家の方を指差す。
「──また来てるよ。母さん困ってるからさ、代わってやれば?」
「また…!?わざわざ知らせに来ないで、正樹が追い返してくれればいいのに…」
「殴って警察沙汰になってもいいならやってる」
誠二は溜息を吐き、まったく状況が理解出来ない衛に謝ってから正樹と2人橘家へと戻ってしまった。
「…何が起こっているのでしょう」
部外者の自分が今橘家へと戻ることは出来ないだろう。かといって誠二無く1人では、 土御門と話も出来ない。
「………」
衛はゆっくりと辺りを見回す。少し考えた後、先程来た方角とは逆の──湖の方へと歩き出した。
──────────────────
4人で遊びに来たあの湖は、今も変わらない美しさで衛を迎えてくれた。
湖面は朝の光を吸い込み、細かく波打ちながら静かに佇んでいる。確かあの時は、模型の飛行機を飛ばしにきて…。事件が起こり、騒がしくなる前の最後のひとときだった気がする。彼女と並んでこうして湖を眺めて、他愛のない話をして───
「………?」
湖の少し先、ぼんやりと何かが見える。眼鏡を掛けていてもぎりぎりで見えない位置だ。
ぶれる輪郭は細長い。
あれは………人だ。
「人……!」
確信した時には、衛は走り出していた。じゃばじゃばと湖に入って行く。服が水分を含む不快感と寒さに耐えながら、駄目です、いけません、と声を上げて女性を呼び止めた。
女性は声に気付いたのか動きを止める。それでも前へと伸ばした腕を、堪らずに衛が掴む。
─────、
振り向いたと同時に目が合って、
「───、」
「───貴方、」
衛は言葉を失った。
女性は驚きよりも嬉しさが勝ったらしく、彼とは正反対に無邪気に微笑んだ。
「…やっぱり貴方ね!私、貴方を夢で視た時からずっと───」
掴んだ細い腕は折れてしまいそうで、さらには白く冷たくて。
「──待っていたの」
探り伝った指先を絡ませて、女性──三島 遥が衛を見詰めていた。
《続く》
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2009/09/16
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