指切りP
衛と誠二は朝方を見計らい、橘家の裏にある勝手口から外へと出た。正規のルートではない山沿いの獣道を通り、水羽女神社へと向かう。
「遥さんは、今祖母と暮らしています」
「祖母とは…土御門さんですね?」
「はい。こっちの家を離れる時、遥さん独りでは辛いだろうから…と」
辛い、という言葉に引っ掛かりを感じつつ、衛は誠二の細い背中を追って歩いた。
暫く進むと路が開け、神社の目の前に出る。とても近い。土御門はきっと毎日この経路を通って仕事へと行ったのだろう。誠二は一息吐くと、上りましょうか、と階段を見た。
「驚きました…こんな道筋があったのですね」
「まだまだありますよ。この村は…不思議な処ですから」
事件当時に衛と遥が抜け道を発見してから、正樹と誠二はこの村の構造に興味を持つようになった。幼い頃によく村を探索しては、このような近道を見付けて遊んでいたのだ。
「それでも、この神社にだけは近付け無かった…。祖母がいましたから」
「それは…」
普段は優しい人ですよと誠二は笑う。神社の中にだけは入るな、と土御門は日頃から正樹と誠二に教えていた。
「遥さんが祖母とここに来た後、その決まりを破ったのは正樹でした」
正樹は見付けてしまった。
地下へと繋がる階段を───
「……其奴は客か?誠二」
階段を上りきると、直ぐに遠くの方から声を掛けられた。
「おばあちゃん」
以前よりも一回り小さくなった土御門は、手に竹ぼうきを持ち、険しい表情で衛を睨む。
「…早朝からすみません。あの…」
「──帰りなさい」
いきなりの言葉に動揺したのは誠二の方だった。
「お…おばあちゃん、失礼だよ、衛さんは」
「何も聞かん。ここはアンタの来る場所では無い」
帰りなさい、ともう一度呟き、土御門はくるりと後ろを向いて掃除を始めた。誠二が何を言っても顔を上げる様子はない。
衛は終始感情を面に出すこと無くそのやり取りを見ていたが、誠二と目が合うと小さく首を振り、彼女の背中に向かって深く一礼した。
「──また伺います、」
「………」
神社を後にした。
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「あの…いいんですか?」
階段を下りながら誠二は衛に問う。
「諦めるつもりはありません。何度でも通います…ただ…」
「ただ…?」
「どうしてわざわざ忠告をするように待っていたのか…」
「おばあちゃんも、衛さんが今日来ることは分かりきっていたようでしたね」
もしそれが遥の未来視によるものだとしたら…。
「──あ、」
誠二が声をあげる。その先に視線を移すと、昨夜に別れてそれきりだった正樹の姿があった。
《続く》
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2009/09/01
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