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指切りK






相田衛 様



このような手紙という形でのお返事になってしまった事を、どうかお許し下さい。

私はいつかは話さねばならないと、いつも心に思っておりました。あの子が誰よりも慕い、好いていたのは他ならぬ衛くん…あなたであり、私は勿論、夫共々その姿を微笑ましく、見守り育てて参りました。夫が他界し、あの子が要らぬ責任に押し潰されそうになった時も、傍で支えて下さったのは衛くんでしたね。(恐らく母親の私では、どうする事も出来なかったでしょう)私は言葉で言い表せない程とても感謝しています。出来るならば、生涯に渡って衛くんがあの子を支えてくれればと、淡い願いも抱いておりました。ですから、あの子が帰らなくなってからも、幾度も私に会いに来ては体調を気遣って下さいました事に嬉しさを感じる反面、10年前のあの子との約束を思うと、胸を締め付けられるような苦しさを感じておりました。

衛くん、
私は遥が旅立つあの日、実は約束を結んでいたのです。

私が何度遥の事を訊ねられても応えなかったのは、全て、その所為でした。

遥は常々言っていました。自惚れかも知れないけれど、衛は私のことになると駄目なのだと。つい周りを見失って、損をしてしまう、と。きっと遥は照れていたのだと私は思っていました。私はあの子の笑顔が無理をしたそれだったのだと、察する事が出来なかったのです。

その頃あたりから、遥はしきりに“未来視が酷い”と言うようになりました。
朝起きても覇気が無く、毎晩視る夢に消耗されている様でした。私は上手く助けてやる事も出来ず、衛くんに相談したらと促しても、遥は聞きませんでした。心配を掛けたくない───そう思っていたのでしょう。


そしてあの子は出ていきました。
未来視には、ある女性が映っていたと聞いています。彼女はこのままでは消えてしまうと、だから助けに行くと…。もう私がどんなに説得しても無駄でした。あの子は父親似ですから、刑事である以前に、1人の人間としての考えがあったのでしょう。私は何も言わずに見送ると決めました。あの子は、必ず帰ってくるという事と、これらの全ては衛くんや他の人々には決して教えないで欲しいと言いました。これが、約束でした。


私は、堪えられなくなってしまったのです。

遥を見捨てずにいて下さったあなたに、これ以上顔を背ける技量も冷徹さも、私には無かったのです。


あれは確か、一昨年の夏でした。高校時代に一緒だった、由紀さんを覚えていらっしゃいますか?彼女には双子の息子さんがいらしたのですね。夏休みに由紀さんの実家を訪ねた様で、こちらにも挨拶に来てくれました。(由紀さんはあまり体調が優れない様で、今回は2人だけで来たようです)私が遥はいないと告げると直ぐに帰ってしまったのですが、何か思い詰めたような印象を受けました。私が訊ねても彼らは答えません。ただ“ミオに会って欲しい”と言伝(コトヅ)てる様頼まれました。


余談なのかも知れません。ですが、心の整理にと筆を取った今、彼らの言葉とあの日の情景が、頭から離れないのです。


10年という年月は遅すぎました。馬鹿な母親だと笑って下さい。この手紙を読んで、もしあなたが思い止まる事があったとしても、私はそれは間違いではないと言いたいのです。あなたが選んだ道が真実であると、きっと遥も信じておりますから…。




ここまで希望を与えて下さったあなたに、心から感謝しています。




三島 智子




追伸
こちらの連絡先と住所は、遥の部屋にあった由紀さんの実家と嫁ぎ先のものです。衛くんに頼まれていたものが見付かりましたので、同封いたします。





《続く》
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2009/01/10





あきゅろす。
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