イエロウ・パーカーC
ある詐欺組織の、あるところのボス。
奴に遭ったのは、丁度昨日のこの時間帯だった。
私は何時もの様に“変装”をして、人通りが疎らな街を歩いていた。
(………凄くヒマ)
最近面白いことも無い。久しぶりに生王くんにでも会いに行こうかな、なんて思ってみたが、只会っても…やはり面白く無い。
何か飲もうかと、カフェを探して入口へと向かう。
「――――」
私は………足を止めた。
「―――う――は!!」
何か聞こえる。
直ぐに思い当たった自分が、憎い。
「うひゃはひゃはっはー!!」
「先生ー!!とまって下さいー!!」
声の先を見ると、やはりそうだ。
………あの大嫌いな探偵がいた。
彼は奇声を発して蟹走りで移動し、尚且つ手に持った本を読んでいた。
その後ろを、あの子が懸命に追いかけている。
そして、探偵は私と目があった瞬間、凄いスピードで此方へ来た。
…その時の私は、折角整えた顔が台無しに成る程、嫌そうな表情をしていたに違いない。
「やあ!」
「………」
挨拶されたが、私は無視してカフェに入らず歩き始めた。
何時もだったら嫌味の一言でも言ってやるのだが、今日は生憎そんな気分にはなれない。というか、顔見知りだと思われたくない。
探偵はフォークダンスをしながら付いてくる。
「まったく君は何時見ても相変わらずだ!」
「………付いてくるな、不審者」
「ほほう!」
突き放したつもりが、探偵は面白そうに口の端を上げて、私の前に立ちはだかった。
「今日は機嫌が悪いのか!どうせ何時ものイタズラでも失敗したんだな!」
…バラす。絶対に消してやる。
「先生…!」
あの子が追い付いて来た。さっさと連れて帰ってほしい。
「失礼します」
「君はイエロウか!」
「………は??」
後ろを向いた私は思わず振り返ってしまった。
「イエロウだ!イエロウが好きかと聞いている!」
「いえろう??イエロー…。好きなわけ無いわ」
私が好きなのは朱、真っ赤なあの色だけ。
探偵は ククク、と喉を鳴らして笑い、
「それならいいのだ」
満足そうに笑った。
「イエロウが似合うのは彼だけだよ。そうだろう伊綱くん」
「え!?…は、はぁ」
困惑する彼女を放って、探偵はまた雄叫びをあげながら走って行った。
「………」
私は1人その姿を見届ける。
イエロウ…って。
さっぱりだ。
私は気を取り直して、買い物でもしようと手近な店へと入る事にした。
古着屋だった。
「…あ」
入って直ぐに辺りを見回すと、見たことがある顔があった。
…壁に掛けられたイエロウを見詰める彼を、私は良く、知っている。
―――弥勒院――
《続く》
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