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イエロウ・パーカーB
ある所の本屋の店員。



















今日もまた、あの人が来た。

これで7日連続だ。言い換えれば1週間だ。このバイトを始めて2週間。平穏だったのは最初の1週間だけだった。気合いを入れて休日にまでシフトを頼んでしまったことが、どうやら間違いだったらしい。




「グッモーニング!」



もう昼過ぎだ。


「…いらっしゃいませ」

とりあえず事務的に挨拶してみるが、彼は完全に私を無視し、ずかずかと店の奥へと消えていく。



途中で“とうっ”とか“うひゃひゃ”とか言って他の客とぶつかっていた。



彼のことは実は前から知っていた。私が入った時にはもうここのブラックリストに載っていたし、以前働いていた喫茶店のそれにも似たような人物が書かれていた気がする。



長身、ぼさぼさの髪に何時も同じ服装。何より、その行動一つ一つが、おかしい。

…店長に連絡しようか迷ったが、別に万引きとか本を破ったとかは無いので、今日も思い留まる。



暫く様子を観察していると、どうやらゲームの攻略本のコーナーにいるようだ。何やら子供と話している声が聞こえる。



「……ら、と…つか…て!」

「うはははは!それが甘いのだ!」


子供の声があまり聞こえない。何を話しているのかさっぱりだ。



「…あのう…」


すっかり気を取られて、目の前に客がいることにも気付かなかった。


「…え、あ…すみません!」


急いでレジを打っていると、


「ははははは!」



…ああ!気になる!




笑い声は段々と近づいて来て、前の客にお辞儀をした私と…目があった。



「これください!」


どん、と分厚い攻略本を置かれた。


「…せ、1260円です」


「無い!」




その人は、自信満々に言い放った。



…なんなんだ、コイツは。



「…えーと」


「無い!生憎今日は一銭も持っていない!だから言っただろう!“これください”と!」



子供だ。見た目は兎も角、子供並みの屁理屈だ。



…店長、呼ぼう。



私が内線に手を掛けた時、小柄な女性が店内へと入ってきた。




「…先生!何してるんですか!」


自分より遥かに背の高いその人を叱りつけ、くるりと此方を向き、すみませんと謝られた。


「丁度よかった伊綱くん!支払い頼むよ!」

「はあ!?」


そう言って、凄まじいスピードで彼は出て行った。


…本を持って。



「ああもう!…あ、おいくらですか??」


「1260円です」


きっちり1260円を出し、レシートは要りません と言って、彼女は出て行った。



店内が一気に静かになる。



すると、先程の子供の声が聞こえた。




「…あのおじちゃん、ときわのもりをずうっとうろうろしてたんだぜ!」

「ばかだなあ!はつでんしょにいけばすぐにみつかるのに!」








私の頭の中で、黄色い電気ネズミが顔を出して…消えた。









《続く》


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