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お伝えしたいこと




お伝えしたいことが、あるんです。



そう言っても、私は単なる先生の助手に過ぎませんし、多少無茶なさる先生のサポートや身の回りのお世話くらいなら、喜んでさせていただきます。

先生はとても優しい方です。

この前、お給料を少し上げて下さいました。

普段あまり喋らない分、生王さんと話されている時の先生は何となく新鮮です。やっぱり男の友情ってやつでしょうか。なんだか羨ましいです。











先生、








弥勒院先生。









…友情もとても大切ですが。













やはり、彼女さんには、優しくなさった方が良いと思います。


先生覚えていますか??


この前の金曜日、心霊スポットの取材から帰ってきた先生は、彼女さんを連れていました。


私よりも長い髪の所為で、顔がいつも見えません。



こんにちは、と会釈をしても、此方を向いて下さらないので…。

先生も先生です。彼女さんをほっといて、さっさと仮眠をとってしまうんですから。















「…ち、ちょっと待って、彩子ちゃん」


「はい??」


この話を生王さんにすると、彼は少し考える様に唸り、



「その人の、名前知ってるの??」

「いいえ」

「弥勒から紹介されなかった??」

「はい」

「2人が喋ってるのとか、見たことある??」

「…無いです」


私は意味が分からないまま、生王さんの質問に答えます。



「…昔、」

生王さんはコーヒーを自分の方に引き寄せ、ミルクと砂糖をがばがばと入れ始めました。

心なしか、手が震えています。


「昔ね…ほら、アイツ、何かとオカルトの類いに好かれる体質らしくてさ、僕もその所為で何度か…。で、」


すっかり白く濁ったコーヒーを、ぐるぐるかき混ぜます。


「だから、1回だけ…アイツを霊媒師、っていうのかな…そこに無理矢理連れて行ったんだ」



先生は 面倒、と渋り、なかなか行ってくれなかった様で。



「それで、その人お婆さんだったんだけど」


暗幕で仕切られた、いかにも、という場所にその老婆は居たそうです。


「予約して行ったのに、弥勒の顔見た瞬間、いきなり帰れって怒鳴られてさ」


相当甘かったらしく、カップに口をつけて直ぐ、生王さんは顔をしかめました。

「それが凄い剣幕で…弥勒だけ外に追い出されて、僕だけ残された」


そして、生王さんは言われたそうです。


―――あの青年には関わるな。
後ろに今まで視たことが無いほど、《背負って》いた、と。



「………」

私は怖いものが…苦手です。

それでも、段々と生王さんの話の意味が分かってきました。


「…だから、多分。彩子ちゃんが彼女だと思っていたのも…そうだと思う」

弥勒に彼女がいたなんて聞いてないし、と彼は付け加えました。



「私…どうすればいいんでしょう…」

急に不安になって、私は生王さんを見ました。


「とりあえず先ずは弥勒に………って、あ」


生王さんの目線の先を見ると、

「…先生、」


先生が、いました。



「…何、この組合せ」

「…お前の所為だよ、弥勒」

「はぁ??」


私は恐る恐る先生の後ろに目を遣ります。





「………あ、あれ??」



「どうした、彩子ちゃん」

「………」


そこには誰の姿も、勿論、あの女の人もいませんでした。


「それより弥勒、今日は取材で遠出するんじゃなかったの??」


そう言えば、そうでした。


「…全部キャンセルした」

先生は煙草に火をつけようとして店員の方に睨まれて(禁煙スペース!)渋々煙草を箱に戻します。

そして、自分の背中を指差して、


「背中…なんか重くて。誰もいないのに声はするし時々息苦しくなるし、流石に限界だった」


飄々と言いました。


「お前なあ…」

呆れる生王さん。私は絶句してしまいました。


「とりあえず知ってる神社片っ端から回って、取材したツテで霊媒師探してもらって。…もういないだろ??」


最初に気付いたのは、私が先生に妙によそよそしく会釈をしていたから、だそうです。


煙草吸ってくる、と先生は店から出ていきました。






「………」

「………はあ、」


生王さんは冷めたコーヒーを一気に飲み干して、


あんな奴だけど、宜しく、と苦く微笑みました。















先生に、伝えたいことがあります。







先生は やっぱり、















―――凄い方です。







蓮都:愛され弥勒。





あきゅろす。
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