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そして涙は零れる様に





ぽたり。















“そして涙は零れる様に”














私は、見つからなかったんです、といいました。
胸がつまって、喉がじわりと熱くなったのは、外の夕焼けの所為だったのかもしれません。

先生は、そう、とほんの一言それだけ言って、ぱたんと奥の部屋に吸い込まれていきました。

部屋には、私しかいません。

陽当たりの悪い窓から、線をひいたように、一筋の陽射しがさしこんでいました。

それはどんな絵の具よりも、どんなインクよりもきれいな紅でした。

私はその紅にそっと手をかざします。

暖かいこの色が、私から、先生から、彼を奪っていったのだと思いました。

悔しくて、涙が出そうになりました。

彼は、夕焼けに染まってしまいました。

昔、ふたりで夕陽をみたことを思いだしました。

とってもきれいな夕陽で。

私がきれいですね、というと、彼はなにも言わずにほほえんでくれました。

私もうれしくてほほえみ返したけれど、

彼の横顔が、どこか哀しげだったのを私は知っています。

その瞳は真っ赤におちて、

今にも溶けてきえてしまいそうでした。


(本当に、きえてしまったのですか)


―――ガチャリ、


ドアが開いた音がしました。

「伊綱くん」

先生が顔を出し、私は、なんでしょう、と応えます。

「明日は、早く出勤して」

「えっと…どれくらいでしょうか」

「早くだ、早く!!夜が明ける前にだ!!」

今度はバタン、とドアが閉まりました。

















次の日、私は言葉どおりにとにかく早く事務所にきました。


「…あ―…」

夢の中らしい先生は、のそりと腕をもちあげて、

「そと」

と玄関を指差しました。


私は外に出ます。

眩しくて、目を細めました。

「………!!」





ひんやりした空気
透き通るような風
そして













「流石だ伊綱くん!!ぴったりではないか!!」

すっかり目が覚めた先生が、外にでてきました。

「先生っ…」

私は言葉がでてきません。目を動かすことも、できませんでした。








こんなに












海にうかぶ朝陽がきれいだったなんて。











「彼もみていたよ」

仕事も雑務も任せきりで、残業ばかりしていたようだから。

先生は胸いっぱいに空気を吸い込むと、満足そうに、にやりと笑いました。



「はいっ…」

私はうなずくのが精一杯で、気づくとぽたぽたと涙が零れていました。


泣かないって、決めたのにね。

ゆらゆらと、きらきらと上る陽の光に、私は手をかざします。



ああ、なんてきれいなんだろう。


まるで、全てを包み込むような

全てを見守っているような




その、強く、儚い、美しき姿は











今も私をしっかりと見つめています。













蓮都:涼二さんがいない時の話。



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