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残酷なほど綺麗に微笑んだ


一瞬だった。交わった彼女の瞳が泣いているように見えて俺は息を飲んだ。その顔は確かに笑っていたのに何故悲しそうに見えたのだろうか。次に見た彼女はいつも通り変わりなかったけれど俺には先程の一瞬が瞼に焼き付いて消えなかった。繋いだ右手を強く握れば彼女が困ったような表情で優しく笑うものだから、俺は眼をきつく瞑った。

「あのさ、」

消え入りそうな彼女の呟きに眼を開けば震える唇が視界に入った。戸惑いがちに小さく動く唇が何を言おうとしてるのか、本当は理解しているのだ。それでも認めたくなくて、彼女の口からそれを聞きたくなくて、俺は一度自分の唇を噛んだ後彼女のその唇を塞いだ。

隙間から零れた彼女の吐息に胸が締め付けられる感覚を味わい、ゆっくりと顔を離す。盗み見た彼女の表情が先程以上に泣き出しそうで、あまりにも苦しそうなものだから、俺は直視できなくて思わず眼を反らした。

「ごめん」

呟いた声は自分でも驚くくらいに掠れていた。緩く首をふった彼女も小さな声で「ごめんなさい」と謝ってきた。彼女は何も悪くなどないというのに。

「好きなんだ」

「っ、私だって、」

自分でも意地の悪いことをしているという自覚はあった。それでも自分を抑えられないのだからどうしようもない。
俺は心から彼女を愛していて、お互いに依存しあっていた。相手がいなくては生きていけないと思うなんて、あまりにも馬鹿で浅はかで、重症だ。俺達は子供すぎて、お互いを支え合うような関係を築けなかったのだ、自分に必死で相手に感情を押し付けることしかできなかった俺達は相手の重荷にしかなれなかった。

どんなに相手が好きでも、それだけでは駄目なのだと、相手の為にも自分の為にもならないのだということは、もうだいぶ前から理解はしていた。それでも踏み出せずにいたのは、微かな希望にすがり付きたかったからだろう。俺達がもっと大人だったなら、最近はそればかりを考えていた、無意味な事だと分かっているのに。

「だいすきだよ」

そう言った彼女の次の言葉を聞く準備は出来ていた。小さく息を吐き出した彼女の唇を眺める。その唇は少し乾いているようだったが、艶やかに赤く染まっていた。彼女の瞳を真っ直ぐ見つめて手を握り締めた。

「だから、終わりにしよう」



そして、残酷なほど綺麗に微笑んだ



次の瞬間に涙が頬をつたってしまったのは何故だろう。彼女から紡ぎ出された言葉は、俺が言おうと思っていた言葉と同じだったというのに。



091118
私の言葉を聞いた彼は
見入ってしまうほど綺麗な涙を溢した







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